第二十一話 賢者の連れ
神崎の後ろにいるのは獣人の子供だった。
まだ幼く服の下から尻尾がチラリと覗いていた。
お互いに譲れないものがあるせいか、動けなくな
っていた。
そこへトリスヴィアが通りかかったのだった。
「そこで何をしている!」
トリスヴィアの目に飛び込んで来たのは、異世界人
にたち向かう、賢者の連れの姿だった。
獣人の子供を背に庇うようにして自分たちの周りに
炎を立ち上らせていたのだった。
「魔法を治めてくれるか?」
「えーっと、皇子様だっけ?」
「あぁ、客人に何かあると賢者様が機嫌を悪くする
からな。おい、異世界人、この方の言う事を素直
に聞いておけ」
「しかし……俺らはそいつを……」
「まだ言うのか!」
異世界人はきっとゼニス皇女の命で獣人の子供を殺
そうとしていたのだろう。
なんとも浅ましい事だろう。
だが、反対に、賢者様の連れは自ら立ち向かって行
く勇気のある人物の様だった。
「あのさ…この子を親のところに返したいんだけど」
「それは無理だ。そいつは奴隷だ。首を見てみろ」
「首?奴隷?」
神崎は振り向くと子供の首のところの痣を見た。
それはあきらかに焼印の様にはっきりと模様が彫
られていた。
「これは……」
「それは奴隷紋。主と決めた者に逆らうと魔法の
棘が身体を貫いて串刺しになると言う魔法だよ」
「……」
まぁ、魔法というより呪いに近いものがある。
「こんな幼いのにか?」
「幼くても奴隷は奴隷だ。そこは変わらない」
はっきりというトリスヴィア皇子に神崎は複雑な
気分だった。
この世界の人間ではないが、同じ生きる者として
弄ばれる為にある命などないと思いたかった。
「それでも…そんな簡単に人を傷つけるのはおか
しいと思う」
「神崎、違うんだ!これは訓練で……」
「訓練が弱い者を虐める事なのか?」
同じクラスメイトだっただけに、許せなかった。
弁明もあまりにも幼稚過ぎる。
子供を虐める事が訓練とは、誰が信じるというの
だろう。
「なら、代わりに俺が相手になってやるよ…」
「……!!」
神崎の言葉に、クラスメイト達は戸惑っていたが、
すぐに気を取り直すと各自魔法を唱え出したのだ
った。
ずっと虐められていた相手なら、自分たちでも勝
てるとでも思ったのだろう。
しかし、そんな油断はすぐに消え去ったのだった。
なぜなら、全員が今、地面に這いつくばっている
からだった。
『主に攻撃して、ただで済むと思ってるのか?い
っそ八つ裂きにしてやろうか…?』
くぐもった声が響き渡ると、それまで大人しくし
ていた足元の動物が唸ったのだった。
「これは……一体……」
「えーっと、皇子様だったっけ?大丈夫ですか?
ユニ、その位でいいよ」
ふっと、身体にかかる重力が戻る。
足元にいた小動物がやった事だとわかると、その場
の全員の視線が向けられたのだった。
神崎は小さな身体のユニコーンを持ち上げると腕に
抱えた。
「俺の契約獣だから…まだ相手になりたいのかな?」
嫌味っぽく言うと、誰もが顔を真っ青にして首を横
に振ったのだった。




