第十九話 宝物庫
王都に向かう途中、神崎はずっと黙ったままだっ
たが、人の多い往来を見て、屋台や、出店を見て
回るうちに機嫌が治った様に見えた。
「すごい……美味しそうな匂い…これは……」
「確かに、こんな匂いは前にはなかったかもね」
数ヶ月前までは出店でも、こんな匂いはしなかっ
た。
それに新しい店が多く出ていた。
まるで現代のお祭りの屋台の様だった。
ソースや、醤油、麺類などもある。
「これは一体……」
「ここで再現した人がいるんだな〜」
神崎は驚きと、その作り方に興味を持っていた。
「神崎くんならできるでしょ?」
「う〜ん、どうだろう。素材集めも大変なんじゃ
ないかな?ここでは卵って貴重なんでしょ?」
「あぁ、そうだったかも…」
この世界に鶏の飼育などやっていない。
自然界で取ってくるしかないのだ。
「それに発酵とかは魔法でって思うけど、制御が
難しいんじゃない?」
「慣れれば出来ると思うけど……」
そんなこんなで、味を楽しむとやっと城に向かっ
たのだった。
王に謁見すると、大層歓迎された。
「よう、戻ってきてくれた。賢者様のお部屋はそ
のままにしてありますぞ」
「ありがとうございます。今日はお願いがあって
きました。宝物庫を見せて欲しいのです」
「そ〜んな事でしたか!どうぞお好きに見ていっ
てください」
太々しい顔ではあったが、終始にこやか過ぎて逆
に怖くなる。
「本当にいいのか?」
「本人がいいっていうんだからいいんだよ。」
ニッコリとそれを受け入れると、弘前は騎士に案
内されるがまま宝物庫へときた。
そこは厳重に管理されており持ち出し厳禁となっ
ている。
もし、持ち出そうものなら、アラームが鳴りトラ
ップが発動するという。
「大丈夫です。見るだけですから」
弘前が言うと、騎士について中へと入る。
宝物庫は3重のドアに挟まれ、その上結界魔法がか
けられていた。
それを破るのは普通ではあり得ないほどの魔力が
いるのだった。
だが、神崎にはそんな事は全く通用しなかった。
「さぁ、どこにあるか分かる?」
「ん〜〜〜」
中へと入ると歩き出す神崎に騎士達は弘前の方を
チラチラと見る。
「僕の連れだから大丈夫ですよ」
賢者の言葉は絶対だった。
戦いの折に騎士や兵士が無傷で勝てたのも賢者の
おかげだった。
感謝しない兵はいないくらいだ。
すると、一つの箱の前で神崎が止まった。
「それかい?」
「うん…… 多分……」
箱の上から手をかざすと、何か力が流れ込んで来
たのだった。
触れてもいないし、結界には全く反応がない。
惹かれ合うカケラ達は一つになろうと神崎を誘う
のだった。
「うん、出来たみたいだし、ちょっと覗いてから
帰ろうか?」
「うん……」
「騎士さん。いつみてもここにあるものは凄いで
すね〜」
「それは勿論、宝物庫のお宝の数ならこの大陸一
だと思いますね〜」
騎士は誇る様に胸をはったのだった。
そんな宝物庫を護っているのが、自分達なのだと。




