第十六話 皇子の友人
母親に躾けられたせいかお茶を淹れるのは上手だ
った。
お茶に煩いトリスヴィアは他のメイドにはお茶を
淹れさせなかった。
母が倒れてから、今もずっとニアが代わりにお茶
を淹れているのだ。
「母は元気か?」
「はい…殿下のおかげで少し起きれるほどには…」
城の中で倒れているのが見つかって以来、どの医
者に見せても完治は難しいと言われた。
唯一治せるとしたら……聖女の祀られている神殿
の祝福を受けるしかないという。
しかし、それは膨大な金が必要で、庶民が出せる
額ではなかった。
こうして、ニアは少しでも薬をと城の中で働いて
いるのだ。
「そうか……早く元気になるといいな……」
「はいっ!殿下のお側に仕える事が、本当に奇跡
の様なことです。僕なんかを雇ってくれて、本
当に感謝しています」
「そんな事は……ニアの淹れるお茶は美味いから
な」
あまり褒めるお人ではない。
だが、そばにいるニアの前だけは素直になれたの
だった。
お茶菓子と言っても砂糖は貴重で砂糖を溶かして
固めたものが主流だった。
飴の様な固められたのを甘味として食す事が多い。
だが、今日は違っていた。
「これは…なんだ?」
「焼き菓子というそうです。サクサクしていて甘
くて美味しいというのです。最近発売されたも
のだと伺ってます」
ニアが説明するのは、業者が持って来たお菓子だ
った。
それはバターと砂糖の味がして、口の中でとろけ
る様で、初めて食べる味だった。
サクッと噛むとわやらかく、口いっぱいに甘さが
広がった。
「う……うまいな……」
「はいっ、今人気だそうです。王都でも一店舗し
かなく、行列ができるほどだそうですよ」
「ニア、お前も食べてみろ」
「いいのですか!嬉しいです」
話には聞いても、こんなお高いものをニアは食べ
た事はなかった。
味見は料理長がしたが、みんなが食べるほどの量
はなかったからだ。
「ん〜〜〜!美味しいですっ!」
本当に美味しそうに食べるニアを見ながらトリス
ヴィアは笑ってしまっていた。
いつもイライラしていても、ニアがそばにいると
笑う事が出来るのだ。
この心底明るい青年は、トリスヴィアの唯一の友
人だったからだ。
城の中は腹を探り合う事しかしないし、姉弟とい
えど信用すらできない。
そんな中でのかけがえのない友人なのだ。




