第四話 エルフの精鋭部隊
海の航路を選んだ神崎奏と弘前康介。
契約獣のユニコーン。
2人と一匹は進路を西に変えていた。
それは少し前の事だった。
イビル国を出てから、南へと向かう予定だったの
が悪天候と重なって船は一旦西へと向かったのだ。
悪天候と言っても海が荒れた訳ではない。
水竜が暴れているという事情だった。
「海って……竜なら倒せば通れないの?」
「神崎くん。水竜は無理なんだよ。海全体を凍ら
せでもしないかぎり倒せる相手ではないんだ」
「なら、どうするの?」
「進路を変える……とかかな」
「ふ〜ん、異世界でも出来ない事があるんだな」
「それはどこの世界でも一緒さ」
弘前はこの世界に詳しい。
それは賢者だからというだけではなかった。
「なら…次はどこ行く?」
「西って事は…エデルかな。あそこは人間って
だけで攻撃されるから気をつけないとかな」
「攻撃されるの?人間ってだけで?」
神崎には理解出来なかったらしい。
「あそこは精霊絶対主義なんだよ。だから、人
間は精霊を馬鹿にするように精霊石を使って
魔道具を作るのが気に入らないのだろう。」
「魔道具?」
「神崎くんは、見ていなかったかい?この船も
魔硝石と精霊石で動いているんだ。魔硝石と
は魔物から取れる魔石を加工したもの、精霊
石とは精霊が多い場所で取れる希少な石の事
だよ。下級精霊が宿っていると言われている」
「精霊が宿ってるの?」
「さぁ、それは見て分かるものではないよ。で
もエルフ達にはそう見えているのだろうね」
「それで襲ってくるってわけ?」
「そう言われているってだけ何だけど、まぁ
だから出会ったらこっちも………」
弘前はあらかじめ、どう動くべきか話したのだ
った。
そして今、目の前に無数の矢が放たれたのだっ
た。
予想できていた事だったが、実際に現実となる
と、なんだか悲しいものがあった。
神崎の後ろに隠れていたユニコーンが前に出る
と重力を操って地面に矢が突き刺さったのだっ
た。
「なにぃ…」
「やっぱりこうなったか……神崎くん。油断し
ちゃダメだよ?」
「う……うん。」
人の形をした者を切るのに抵抗がないわけでは
ない。
長野に関しては攻撃してきたから。
だから反撃した。
この人達も、いきなり矢を打ってこなければこ
んな事にはならなかっただろうに…。
いきなりの侵入者への、対応が命取りになった
瞬間だった。
木の上で隠れていたのが仇となったのだ。
地面に勢いよく落下した際、骨が砕ける音がど
こからともなく鳴り響いていたのだ。
森を警戒していた精鋭達は、一瞬で全滅したの
だった。
ただ一人を残して……。
「君がさっきの指示を出したんだったね。さぁ
聞こうじゃないか!どうして僕たちを殺そう
としたんだい?」
「……」
「あぁ、黙りかい?それは困ったね……森を焼
き払えば口が軽くなるかな〜」
「なっ……やっぱり人間は痴がましい生き物だ」
「それは、どーも」
何を言っても弘前には通じなかった。
ただ今言えるのは、どちらが有利な手札をもって
いるかだった。




