第二話 エリーゼの訪問
神崎が帰った後で、ギルド長は領主邸で真剣な顔
つきになっていた。
「カナデくんの登録名はカンザキカナデとなって
いるのはご存知ですか?」
「なるほどな……だが、彼はこの国から出ていな
い、それにうちの兵たちが彼を気に入っていて
ね。毎回会いに行く者もいるくらいだ。」
「そう……ですか。なら、別人だと言う事ですな」
「あぁ、しかし……」
「何かおかしな点でも?」
「いや、彼は私が保護者としておくので、疑わし
い事があったら、私の方に報告して欲しい」
「心得ております」
この街で生きて行く上で、大事なのはギルドと上
手くやって行く事だった。
ギルドとて、領主を敵に回すデメリットのが大き
い。
その上で、領主の騎士エリーゼは元冒険者とあっ
て、彼女の怒りを買うのだけは絶対に避けたかっ
た。
そんな頃、昼飯にありつこうとエリーゼは神崎の
家に来ていた。
ちょうど目の前でラナに訓練をつけているナルサ
スを見つけると声をかけた。
「次は私も混ざろうかな〜」
「げっ……」
「げっとはなにかな〜。ラナちゃんだったね?ま
たカナデに何か言ったのかな?」
「暴言を吐いたんだ。」
ナルサスの言葉にラナは真っ青な顔色を見せた。
ブルブルと首を振るが、エリーゼはそんな事気に
もしていなかった。
そこにケイヒードが呼びに来ていた。
「主人からだぜ!ご飯だから早く入ってこいって
って、嬢ちゃんか!」
「あぁ、お前たちが悪さをしないように見に来た
んだ」
「食事に…だろ?」
「まぁまぁ、カナデは中かな?」
「あぁ、そうだ」
ケイヒードが言うと、エリーゼは中に入って行っ
た。
小皿に取り分けているカナデを見つけると、嬉し
そうに見つめる。
「あ、エリーゼさん。今日もご飯食べていきます
か?」
「あぁ、ありがとう。いただくよ」
普通にドレス姿なら、美人だっただろう。
だが、いつも騎士の鎧をきているせいか男勝りで
女という印象が少ない。
だが。食事をしているときはやっぱり女性なのだ
と思う。
上品で綺麗に食べるからだ。
ラナやケイヒードはがむしゃらに口に入れるせい
で口に周りがすぐに汚れる。
それに対してナルサスとエリーゼはナイフとフォ
ークを使って綺麗に食べるからだ。
「もっとゆっくり食べていいんだよ?誰も取らな
いから」
「何を言っても無駄でしょう。野生の獣が首輪を
付けたとて変わるはずはない」
ナルサスが言った言葉にエリーゼも頷いたのだっ
た。
「ナルサス、カナデに手を出す様な事はしてない
だろうね?」
「何も…そもそも奏に手を出すわけないでしょ」
「それはカナデが優しいから…お前は狡猾だから
な…カナデも何かされそうになったらすぐに言
うんだよ?」
「うん…大丈夫だよ。ナルサスはいつもよくやっ
てくれるし」
エリーゼに見つかってからも、まだ夜は一緒に眠
っているとは言えなかった。




