第一話 奴隷の優雅な生活
ルイーズ領では予想以上に収益が多くなっていた。
その理由は神崎奏の発案で色々なレシピの開発が
進んでいた事にあった。
調味料をはじめとする、料理分野は飛躍的に発達
を遂げていた。
パンも硬いものから柔らかいものや、日持ちのす
るもの、料理に合わせて様々なものができていた。
その中でもスープは画期的でお湯を入れるだけで
暖かく美味しいものが飲めると多くの冒険者や貴
族までもが買い求めたせいで毎月、多くの収益が
入ってきていた。
「さすが奏ですね」
「ナルサスも手伝ってくれたでしょ?」
「それは試食や、食材探しくらいですよ?」
護衛兼、奴隷のナルサスは常に神崎の側にいるよ
うになった。
屋敷も安全面を考えて領主邸にいたのだが、今は
は少し離れた場所に小さな家を建ててもらってそ
こで、ナルサスとケイヒード、ラナと一緒に暮ら
している。
ラナの事があって以来、朝早くにエリーゼさん
が訪ねて来る事があった。
その度にラナが怯えるようになっていた。
「おはよう〜!カナデはいるか?」
「おう、あんたか…2階の部屋にいるが…」
「なら、私が起こしに行こう」
「いや、ちょっと待っ……まぁ、いいか」
ケイヒードは何か言いたげだったがすぐにやめて
庭に出ていく。
そこでは木の影に隠れるようにラナが蹲っていた。
「そう警戒しなくても大丈夫だ」
「でも……あの人……怖い」
「まぁ〜、そうだな。だが、主に害を及ぼさなけ
れば問題ないと思うぞ?」
「……」
目の前でケイヒードの腕を切り捨てた女騎士なの
だ。
あの時ほど、恐怖に思った事はなかった。
それ以来というもの、神崎と契約を結んでからは
一応、様子見となった。
これで契約者に危害を加える事は実質できなくな
ったからだ。
最初は奴隷契約を勧められたが、神崎がそれを否
定したのだった。
「せっかく自由になれたのに?ここを出て好きに
生きる事も出来るんだよ?」
「嫌だ……ケイヒードの側がいい」
「なら、俺の契約獣っていうのはどう?これなら
俺が自分の意思で解除できるし、出ていきたい
時に言ってくれれば解除するよ」
「…それでいいの?……やっぱり無理ってならな
い?」
「そんな事しないよ」
最初は人間を疑うしか生きていく事ができなかっ
た。
しかし、この神崎奏という人間は不思議と周りが
慕っているのを見ると、人間であって、普通の人
間としては何かが違うのだと思うようになったの
だった。
2階で大きな物音が聞こえてきた。
「怒られてる?」
「あぁ、そうだろうな……今頃はナルサスがこっ
てり絞られるだろうさ」
「どうして?」
「そりゃ……主と一緒に寝るのは奴隷としてはな」
男女の区別もつかないような容姿の神崎を抱きし
めるように毎日眠っている。
それを、今エリーゼが目にしたとなれば、自ずと
理解してしまう。
「今日のご飯は少し遅れるかな……」
「お腹減った……」
ラナの呟きにケイヒードは笑いながら戸棚に入っ
ている小さなキューブを手に取るとお湯を注いだ。
「スープでも飲んで待ってようぜ」
「うん。」
インスタントのスープは簡単に手の届くところに
置いてある。
ケイヒードでも簡単に使えるようにと神崎がそう
したのだった。
パンもお腹が空いたら勝手に食べてもいいとして
あるのだった。
奴隷がこんないい待遇を受ける事は滅多にない。
それだけに今の生活が気に入っていたのだった。




