第五十三話 加護の変化
その頃、王都では残った異世界人をどうにか戦わ
せようととある作戦が行われていた。
部屋に閉じこもってしまった数名には食事を減ら
すように勧告した。
そのせいで食堂に行っても少ない食事しか出てこ
ず、肩身の狭い生活を余儀なくされていた。
そんなおり、夏美の訃報が届いた。
領地民の前で処刑されたという。
代わりに護送されてきた河北朱美は放心状態で、
戦える状態ではなかった。
付き添っていた女騎士はボロボロになりながらも
これまで起こった事の経緯を話したのだった。
「これはまた…だが、確か加藤夏美は戦闘の加護
を持っていなかったはず……どうして変わった
のだ?」
「そうなんです。初めは使えない力だったはずが
ゴブリンに慰み者になっていた時に目覚めたと
話していました」
「なるほどな…異世界人は途中で加護が変わるか
もしれないのか……では、厳しい訓練次第では
戦闘に長けたものになるかもしれぬのだな」
「はい、そのように……それと朱美は……」
「あぁ、精神をやられておる。魔法で記憶を消す
処理を行っておる。しばらくしたら迎えに行く
といい」
「はい…承知しました」
朱美のバフは戦う上で非常に助かるものだった。
レベルが上がったせいか同時にかけれるようにも
なったし、これからが楽しみだった。
そんな時に起こった事件だった。
朱美がランスロットを気にしていたのは知ってい
た。
それで、いいとさえ、思っていた。
が、もうランスロットはいない。
その子供さえも、朱美のお腹から出た瞬間に殺さ
れたのだ。
心が壊れても仕方がなかった。
治療を終えて部屋に帰ったと聞いて部屋を訪れて
いた。
コンコンッ
軽い木を叩く音がする。
「はーい」
いつもの声がきこえる。
女騎士はすぐに中へと入ると、そこには何もなか
ったような顔でベッドから降りる朱美の姿があっ
たのだった。
「朱美…体は大丈夫ですか?」
「えぇ〜と、誰でしたっけ?ごめんなさい、なん
か頭がボウっとしてしまって…」
「いえ、大丈夫です。リサ…そうお呼びください」
「リサさんね。えーっと、何かありましたか?」
ただじっと眺める女騎士は、いつのまにか自分が
泣いている事を知った。
「どこか痛いの?」
「いえ……そのような事は…ただ、朱美が無事で
よかったと思ったらつい…」
「リサさんって大袈裟なんですね〜ちょっと練習
中に気絶しただけでしょ?」
「えっ………あぁ、そうだったな」
辻褄が合うように記憶をいじったのだろう。
今はそれでもいい。
荷馬車で戻る時のように、生きた心地のしない彼
女を見るよりは断然いいと思うのだった。




