第五十一話 因果応報
予想外に長野達は苦戦していた。
自分たちが世界の主人公であるかのように思って
いたのが、これではあきらかに主人公に巻き込ま
れたモブの立ち位置だったからだ。
「そんなはずない!俺は主人公なんだよ!この世
界でも、俺は……」
「人に迷惑をかける人間は主人公であるはずがな
いだろう?ここは現実で物語りの中じゃないん
だよ!」
「煩いっ!煩い!煩い!」
目一杯魔力を込めると、火球を神崎へと放つ。
が、それを見て同じように神崎も炎を手のひらに
集めると凝縮させる。
そして目の前に迫る火球に当てたのだった。
小さな火球が大きく燃え盛る長野が作り出した火
球を飲み込む瞬間を目にすると、驚きに表情が固
まったのだった。
「魔法ってこんなもん?これで最強とか思ってる
んじゃないよね?世の中バカにし過ぎじゃない
の?」
「なぜだ……なんで…こんな…」
やっと決着がついたと思うと弘前が出て来た。
「だから言ったでしょ?神崎くんは強いって。そ
れに、そっちものびちゃってるんじゃない?」
後ろを振り向くと白目を剥いた上島が地面にめり
込むようにして気絶していた。
首元に小さな蹄を当てるとこちらを伺っていた。
『主、こやつの首をへし折っても構わないな?』
一応伺いを立てているようだった。
本当に忠義心の強い獣だ。
「神崎くん。このまま逃していい事なんてないと
思うよ?それと、彼らにいい知らせを教えてあ
げよう…少し前にとある森で魔物を使役する女
が取り押さえられ、処刑されたらしい。名前を
聞いて驚いたよ、君達ならわかるだろう?加藤
夏美、そう名乗っていたそうだよ」
弘前の言葉に、夏美がまだ生きていたという事を
知った。
が、それもすぐに打ち消されたのだった。
「夏美が……生きていた…」
「君達は確か犠牲になって死んだと言っいたそう
だね?でも、違った。長野に復讐するんだって
言っていたそうだよ?健気だよね?確か…付き
合っていたんじゃなかったのかい?」
「違う……あいつは死んだ、そうだよ、死んだん
だよ……」
長野にとっては唯一助け出せたかもしれない人だ
った。
だが、そうしなかった。
魔物を使役できていただと……もしそれが本当な
ら、助け出して一緒にいれば強みになったかもし
れなかったという事だった。
「俺らは傭兵団と一緒に来たんだぞ。俺らが居な
くなったら、すぐに探しに来るはずだ。そうす
れば数でこっちが有利なんだからな!」
ルーカスと名乗った男は見えない場所から空間を
繋げ攻撃していた。
上手く使えばものすごい力だった。
「俺と話していたのはみんな見てたから、俺らが
死ねばすぐに……」
「煩いよ。神崎くん、始末は僕がした方がいいか
もね…」
「康介?」
「神崎くんには、見せたくないから、ちょっと向
こう向いててくれる?」
「いや、俺も見るべきだろう。」
「そう……わかった」
弘前が杖を行使すると、長野の手足が凍りついて
身動きを封じた。
気絶している上島の首元に置かれた蹄は、力を込
めるだけで始末がつく。
『主よいか?』
「うん、いいよ」
『良い返事じゃ。ではな……』
ゴキッ……。
たった少し力を込めただけで気絶したまま首があ
りえない角度に曲がっていった。
もう絶命しているのが分かる。
「う……嘘だろ……なぁ…まじで殺す気かよっ!」
「……」
弘前の後ろでただ見ているだけの神崎を睨みつけ
た。
「そう、言い忘れていたけど、江口は最後まで抵
抗していたよ?」
ニヤッと笑う弘前に、長野の目が見開かれた。
「お前が……お前が殺したのか……?」
「う〜ん、違うと言えば違うけど…どっちでもい
いかな〜、だって、君も今から死ぬんだから…」
神崎に聞こえない程度に声を潜めると凍った腕を
コツンッと叩いた。
その瞬間、腕が砕けて痛みだけが長野へと伝わる。
「うわぁぁーーー……痛い、痛い、痛い………」
次々と両腕を壊すと次は両足を砕いた。
徐々に凍っていくと、その部位を順番に砕いてい
ったのだった。
ただ、すぐにはとどめを刺さない。
涙と鼻水が垂れてきても、それどころではないだ
ろう。
激痛だけが脳を支配する。
うるさく叫び続けると、喚き散らした。
今までどれだけ殴られたか、今までどれだけ蔑ま
れ、心をすり減らされたか…
それを思うと、すぐには殺すつもりは起きなかっ
た。
「とどめは俺が……」
「いや、その必要はないよ。だって、死ぬまでこ
こに放置するんだから……」
「………!!」
最大限の痛みを感じさせながら、死ぬまで放置!?
それが弘前ならではの復讐だった。
ただ、このまま叫ばれても困るので、鼻を残し口を
塞いだ。
「さぁ、神崎くん。行こうか?」
「……あぁ」
『主が気を揉む必要はない。人間には生きる価値の
ないクズが多いと聞くからな、こやつはそのうち
の一人じゃろう』
「ありがとう、ユニ。でも、やっぱり慣れないかな」
目の前で人が死ぬのはどうしても慣れない。
だが、この世界ではこれも慣れていかねばならない
事だった。




