第四十四話 収納の指輪
少し離れてはいたが、行けない距離ではなかった。
同じ国内といっても、貴族の屋敷からは少し離れた
山奥にもう一つのダンジョンはあった。
辿り着くまでに多くの魔物と遭遇し、倒してきた。
「結構登ってきたなぁ〜。うわぁ〜いい景色!」
「早く行かないと日が暮れるよ?」
「あぁ、街に寄っちゃったから、遅くなっちゃった
よね。ごめんな…」
「いや、それは僕らの食糧もだろ?構わない」
さっきのダンジョン攻略後すぐにギルドで換金し
て買い物を済ませてから来ていた。
なのであきらかに日が暮れ始めていたのだった。
食糧は夜と朝の分の2食分を買い込んだ。
こういう時に便利なのが、弘前のアイテムボック
スだった。
いくら魔法が使えても神崎はアイテムボックスは
作る事ができなかった。
代わりに弘前からアイテム収納の指輪をもらった。
出し入れは簡単で、魔力を込めて思い描くだけで
中に入れれるし、簡単に取り出せた。
「でも、これのおかげで荷物を持たなくていいの
は楽だね」
「本当はアイテムボックスを使えるといいんだけ
ど、それで我慢してくれ。もっと入る魔道具を
作っておくから」
「康介もそんな気にすんなって、これでも便利だ
からさっ」
ただ問題といえば、収納容量だった。
大きめのリュックに入る分しか入れられないとい
う事くらいだった。
だから剣などの武器は入らない。
短剣くらいなら入るが、それ以外は身につけて移
動する事になるのだ。
魔道具作りは弘前が趣味でよくやっている。
神崎も見ていたが、全く理解できなかった。
これは、魔法陣を物に描き、それを回路として魔
法を練るのだと言っていた。
そもそも魔法陣という物の違いが全く理解できて
いなかったので、手伝う事を諦めた分野だった。
「魔道具を自分で作るんだから器用だよな〜」
「それは先代から受け継いだ知識があるからだね
僕も普通に暮らしていたらこんな事はできない
からね」
山の中腹、ちょうど眼下が見下ろせる場所に、も
う一つのダンジョンの入り口がぽっかり空いてい
たのだった。
「さぁ〜、夜食はボスの部屋前で食べようか!」
「サクサク行きますか!」
『我がおるのを忘れるでないわ』
一気に走り出すと、先頭をユニコーンが駆けてい
った。
ダンジョン内の罠は一回発動すると、しばらくは
そのままになっている。
猛スピードで駆け抜けるユニコーンに罠が後から
後から発動して行く。
神崎と弘前が通る頃には、全部出たままの状態に
なっているのだった。
「ユニのおかげだね。さぁ、先を急ごう」
「獣でも使い道はあるか……」
「何か言った?」
「いや、なんでもないよ。さぁ急がないと先に倒
されそうだ」
ボソッと漏らした言葉は神崎には聞こえていなか
ったらしい。




