第四十三話 オスタリア帝国の末路
弘前の手の中には橙色の宝石が輝いていた。
それは外の光を浴びて輝きを増していた。
「はい、これを…」
「うん、これさ〜持った瞬間にゾワってするんだ
よね〜。本当に大丈夫なんだよね?」
「大丈夫、大丈夫。むしろこれが完全な形になる
のを望んでいるんだよ」
弘前の言われた通りに石を握り締めると自然と身
体に馴染んでいく。
胸に埋め込まれた石が温かくなっていく。
神崎は目を瞑ると落ち着くまで鼓動の速さを感じ
ていたのだった。
これで5つ目だった。
残りは後いくつあるのだろう。
そうして、もう一つのダンジョンへと向かう事に
したのだった。
さっき出たばかりのダンジョンは風化していき、
中の魔物の気配は一切消えていた。
『またダンジョンコアを……どうして分かるの
じゃ』
「それはね…魔力感知で…」
「神崎くん。それは秘密だよ。いくら契約獣と
言ってもいつ裏切るかわからないからね。一
応は裏切らない契約ではあるけど、命を賭す
気があれば、裏切れるからね」
「ユニはそんな子じゃないと思うよ?」
「神崎くん、それは魔物だよ。何をどうしよう
と魔物には変わりはないんだ。それだけは忘
れてはいけないよ」
「あぁ……わかった……」
ここまではっきり魔物と人間を区別されると少
しばかり寂しくなる。
魔物は所詮魔物。
仲間ではない。
それが弘前の考え方だった。
ユニコーンとて、自分が魔物である事は理解し
ている。
だが、ここまで敵意を向けられるのは遺憾しが
たいものがある。
主人である神崎との態度の違いに、弘前という
人間を信じきれない部分があった。
「不服そうだが、所詮は獣。思考もたかがしれ
ている。さぁ、神崎くんは完全な身体を手に
入れる為に、早く星の雫を集めなきゃだね」
「聞きたかったんだけど、その星の雫ってなに?」
弘前の知識でいうと、それは昔天界から舞い降
りた天使が手にしていた物だったという。
富と繁栄をもたらすと言われる宝石だという。
それを持っていると、老いる事もなく、病気に
もならない。
土地は肥えて、毎年豊作だったという。
ある日それを妬んだ他国が政略結婚を期に盗み
出したという。
すると国を出た瞬間、いくつかに割れてしまっ
て消えて無くなったという。
それからその国は亡び、各国が侵略と、略奪を
繰り返し今の国々となったといわれている。
「なら、その盗まれた国って?」
「最古のオスタリア帝国。富と繁栄を欲しいま
まにした最古の帝国と言われている。今でい
う、アルスラ帝国と、ガルダ国、そしてここ
イビル国の昔の名前だよ。そのあと天変地異
に見舞われ、ここは砂漠化していったんだ」
「どうして盗んだりしたんだろう。そんなに貧
困だったわけじゃないよね?」
神崎には理解し難かった。
しかし、この国にいる者なら誰しもが思う事が
あった。
金を増やしたい。
楽な生活がしたい。
贅沢したい。
金銀財宝に囲まれて暮らしたい。
そんな事とは無縁の生活を望む者など普通はあり
得なかったからだ。
「人の欲には際限なんてないんだよ。」
弘前の言葉には重い過去の記憶が重なっていたの
だった。




