第三十二話 傷ついたサトリ
次々に統率を無くしたトレントを屠ると魔石を集
めていく。
神崎はたまに口に入れると、舌で味わう。
「これも美味いっ!」
「それはよかった。せっかくだしこの森の木を全
部燃やしたらどうかな〜」
「それだと味が変わらないか?」
「う〜ん、どうだろう…切った場合と比べるかぁ」
神崎の後ろに迫っていたトレントに向かって火球
を放った。
弘前は一瞬で消し炭にすると魔石を取り出す。
「はい、これの味は?」
「ん〜〜〜不味くはないけど…さっきみたいに美
味しくはないかも…」
こうして、焼き切る作戦は少しお預けになった。
まずは切って倒す事を優先することにした。
たまにパクパクと食べるのを見ながら微笑ましく
思う。
魔力の上限も上がっていくし、威力も格段に上が
っていっているからだった。
神座自身気づいていないが、さっきから攻撃回数
が格段に減っている。
それは威力が上がっている事を示していた。
レベルは確実に上がって来ている。
冒険者ランクも、次行ったら一個上がると言って
いたが、このままいけばもう一個あげれそうだっ
た。
「これは美味しいかもね…」
「康介っ!ちょっといいか?」
「何?」
「この人って…」
さっきのパーティーメンバーの一人だった。
大きな盾を背負っていた大きな男だった。
今は静かに盾を構えたまま亡くなっていた。
「他の人も近くにいるのかな?」
「まぁ、死んでるだろうけど、気になるかい?」
「いや、ここでは生きるも死ぬも自己責任なんだ
よな?」
「あぁ、弱ければ死ぬし、強くても死ぬ事もある。
そんな世界だ」
「だよな……燃やしてやろう」
「あぁ、そうだな」
神崎は同情なのか、それとも自分たちもと考えた
のか、少し複雑な気持ちだった。
一気に燃やしてやると、先へと進んだのだった。
「奥に魔力反応……大きいけど…なんか……」
「これは……重症を負ってる?」
「それってどう言う…」
「少し前にここには、討伐隊が編成されたという
話を聞いたんだ、多分その時に…」
弘前はチャンスだと思った。
ここはトレントが生息していた森ではない。
実際は馬の魔物の縄張りだったはずだ。
サトリ。
それは馬の形をした魔物だった。
突進攻撃と全範囲攻撃で敵を翻弄し圧倒的な強さ
を誇っていた。
大型レイドを想定しパーティーごとにバフと火力
の魔術師を配置してかなりの痛手を負わせた。
が、人間側もそれ以上の損害を出していた。
そして討伐目前でどう言うわけか、退却した。
何かの声を聞いた気がするという証言がでている。
結局、瀕死まで負わせたのを悔いて、さっきのパ
ーティーが再びここに来たのだろう。
が、結局トレントとドライアドに阻まれ、命を落
とす事となったのだろう。
奥へと進むと、見た目馬の形をした魔物が眠って
いた。
全身傷だらけで、周りには血が滴っていた。
「これを倒すのか?」
「サトリ、これなら倒せそうだ」
「康介、倒さずに行けないかな?」
「神崎くん、一応サトリはこの階層のボスなんだ。
放置して先に進めるわけがないだろう?」
「そう……なんだ……」
少し、かわいそうに思えていたのだった。




