第二十八話 トレントの森
大きな巨体にしなるムチのような枝。
突如根っこが盛り上がると、いきなり二足歩行し
て追いかけて来たのだった。
「おいっ、あれって木じゃないのかよっ!」
「トレントっていう精霊の一種かな……」
「あれのどこが精霊なんだよ!切っても切っても
生えてくるしっ、うわっと!」
枝を避けながら二人は猛スピードで走っていた。
「魔法師なんだから、こういうのは得意じゃない
んだけどな〜」
「火も通じねないって本当に木かよっ!」
「いや、通じてないんじゃなくて、火力の問題な
んだと思うけど……こう動かれちゃぁ〜ね〜」
魔力を溜める時間がないのだ。
神崎も、弘前も攻撃を避けるのに必死で瞬間火力
のある魔法しか撃てていない。
もう少し集中して練る時間さえあれば……。
そう思うのだが、逃げ回っている最中に出来る事
ではなかった。
まぁ、気づいたのが遅かったというのもあったが、
魔力が充満した場所で、魔力探知がうまく使えな
かったというのが正しいかもしれない。
さっきのパーティーの連中が魔力探知を使えたの
は、ただ大きい魔力を探知しただけに過ぎず。
実際はトレント達の存在を把握出来ていない。
いや、それよりも大きく魔力を放つ存在の方へと
つられるように行ったのだ。
多分…ただでは済まないだろう。
「さっきの大きな魔力ってこの木じゃないんだ
よな?」
「多分……親玉ってとこかな?だって、僕らが魔
力探知した時は森全体から魔力が溢れてたでし
ょ?」
「あぁ、魔力だらけで、どれが魔物か分からなか
った……でも、まさか全部が魔物だったとはな」
そのせいで今、追われているわけなのだが。
どこにでもある木がいきなり立ち上がると
襲ってくるとか、恐怖でしかない。
それも、次々に増えていく。
一体ならと剣を抜いたが、一体倒し終わった時に
は、5体のトレントが向かって来ていた。
そして、二人は今、逃げているというわけだった。
「もう少しだったよな?」
「うん、そこを曲がってすぐだったはずだよ」
元きた道を戻る。
それだけで精一杯だった。
ひらけた場所に出ると、目の前には上層へと繋
がる階段が見えてきた
そこに飛び込むと、ジリジリと根っこを動かし
ながら下がっていくトレントの姿があった。
「はぁ〜、マジでここまでは来ないんだな…」
「階層毎に決まりがあるみたいだね。さてと、
それよりも、君はどうしてここにいるのかな?」
階段を振り返ると、そこには誰もいなかった。
「誰もいないんじゃ……」
神崎が魔力探知をかけるとそこには確かに何かが
いた。
「人なのか?」
「どうだろうね。姿を現さないなら……」
そういうと魔法をぶつける。
やっと姿を現した時には、ボロボロのマントを被
った女性だった。
その女性は下着姿のまま、ただマントを羽織って
いるだけに過ぎなかった。
「君は……さっきのパーティーの?」
「はい、さっきのパーティーに無理矢理連れられ
ていたのです」
声を出すと、コロコロと鈴が転がるような綺麗な
声を発したのだった。




