第二十二話 先を越されたレシピ登録
奥から慌てたように出て来た職員はさっきレシピ
の買い取りの契約した職員だった。
「そこのお二人さん、待ってください!」
いきなり大声で飛び止められて、他の職員や冒険
者の視線が一斉に神崎と弘前の方へと向いた。
「えぇ〜っと、何かあったの…かな?」
「何か問題でも?」
驚く神崎とは逆に弘前の機嫌は悪くなる。
やっと二人っきりになれるというのに…。
ギルド職員の何か慌てたような様子に、怪訝に思
うと職員に案内されるように2階の部屋に来たの
だった。
何か、書類を手に慌てていた職員は汗を拭きなが
ら椅子に腰を降ろした。
「さっきのレシピの件なのですが……」
「その事なら、後日に入金という事で話がついた
のでは?」
弘前がすぐに切り返すと、持って来た書類を広げ
てきた。
そこには、すでに登録済みになっているレシピが
書かれていた。
そこには、さっき神崎が提出したものと同じ事が
書かれており、その入手から加工にあたっても詳
しく記載されていた。
「これをどこで?」
「すでに登録されているレシピに関しては、こち
らとしても放置できないと言いますか……」
「それはこちらが、盗んだレシピだとでも?」
弘前の怒り混じりの声に、職員も動揺を隠せない
ようだった。
弘前が賢者である事は提示してある。
だから、その連れが人のレシピを盗んで登録する
ような人間であるはずはない。
と信じたいのだと弁解していた。
「どうしてこうなったんだか……、これはどちら
も登録済みだとでも?」
「はい……それ以外にも色々と登録したようでし
て……」
「僕たち以外にもこんな事が出来る人間は限られ
て来るでしょうね……わかりました。今回はこ
ちらは取り下げておきます」
困惑する神崎を見ながら弘前はさっきの登録を取
り下げたのだった。
もちろん契約も解除した。
「先に登録されてたんだね」
「あぁ、まぁ現代の知識があれば出来る事だとは
いえ、悔しいな…せっかく神崎くんが登録する
はずだったのに…」
「別にいいよ。だって、こんなに金貨もらったん
だよ?暫くは食事にも困らないじゃん」
「そうだけど……神崎くんがそれでいいなら、僕
は構わないけど」
悔しい気持ちを胸に押さえ込むと、食事を食べに
向かった。
どの店も、塩味での味付けが多く、何か物足りな
かった。
すると、どこかからの名産品と題して露店に人が
集まっていた。
そこには、柔らかそうなパンに燻製の肉が挟まっ
たものが売られていた。
あきらかにかかっているソースの匂いは照り焼き
ソースの匂いだった。
「これって……」
「まさか…誰がこんな……」
店主は旅をして各地を売り歩いているという。
たまたまこの街に昨日来たといっていた。
その前はアルスラ帝国の端の街、ルイーズを通っ
て来たという。
「ルイーズといえば、あの最近有名な冒険者パー
ティーがいるところだな」
「あのイケメンと美人さんと可愛い子が組んでる
ってやつ?」
「あぁ、あの長野や、傭兵団を打ち負かすほどと
は……近くのダンジョンを攻略した後で寄って
みるか……」
「そうだね。なんか懐かしいなぁ〜。照り焼き味
美味しいよ?康介も食べる?」
いつの間にか、買って来た神崎が自分の分を弘前
の前に差し出して来た。
顔を真っ赤にさせながら弘前はパクッと齧ってみ
る。
やっぱり現代の味だった。
確実に同じ時代の人間しか作れない味だった。
そうなると、これを作ったのは一緒にきたクラス
メイトの誰かということになる。
神崎より先に登録して恥をかかせた仕返しをしな
いという選択肢は弘前にはなかった。




