第十六話 ボス部屋
神崎の知っている弘前は、とても頭のいい生徒だ
った。
一緒に勉強していればおのずと分かる。
何をするにも順序立てて、正確無比なところは昔
と変わっていない。
そんな弘前が望むのは、神崎が死なない事だった。
どう考えても割に合わない。
どうして自分なのか?
「でもさ…俺じゃなくても…」
「それ以上は後にしょう。だって、この先は油断
できないからね」
「あ……あぁ…」
弘前に言われて、現実に戻った。
目の前にある大きな扉の向こうには何かがいる。
それも凄い魔力の塊で、扉のこちら側でさえも感
じるほどだった。
「おそらくだけど、この先にはボスがいるんだろ
う?」
「正解。まだ活性化したばかりで階層も6階層ま
でしかできなかったみたいだね。普通ならもっ
と多くの階層があるダンジョンもあるんだけど
今回は初級ダンジョンってところかな」
弘前の言葉を聞きながら魔力を全身に込めた。
「さぁ、気軽に行こうか」
「よし、行くかっ!」
神崎は気合を入れると剣を握りしめた。
普通魔法を使うなら、魔力媒体。
いわゆる杖、ロッドといった魔石のついた物
を媒介として使うことがある。
それによって火力が段違いに上がるからだっ
た。
だが、今の神崎にはそれは必要ない。
自身の魔力だけで、魔法を維持し制御してい
るのだ。
それがどんなに難しい事か。
弘前ですら魔法の杖を持っているくらいだっ
た。
「やっぱり神崎くんは僕らとは違うんだよ」
ボソッとこぼした言葉は誰の耳にも入る事は
なかった。
大きな扉が開くと、中の魔力が一気に流れ出
てきていた。
まだ、活性化して数時間だというのに、ボス
の強さが窺えるのだった。
「油断しないで」
「分かってるって…一気に前に出るぞ」
「分かった援護するよ」
神崎が前に飛び出していくのを見ながら弘前
はボスの視界から一旦消えるとボスの全体像
を捉えていた。
大きな咆哮が上がると、神崎の動きが鈍る。
魔力を含んだ咆哮を上げたのは、金色の翼を
持った獅子のような身体、後ろ足は鳥の足の
ような鋭い爪が生えていた。
「グリフォンっ!」
「へぇ〜、想像上の生き物もいるんだな」
「下がって!そいつは……」
弘前の声に、振り返ろうとした瞬間、咆哮の
せいですぐに避けれず、鋭い爪が肩に刺さる
と一気に部屋の頭上に飛び上がったのだった。
「ぅあぁっ……は、放せ……このぉっ…」
暴れてみるが、肉に食い込んだ爪からは簡単
には逃れられなかった。
弘前は攻撃したいが、できずにいた。
もしここで攻撃すれば神崎に当たる可能性も
あるからだった。
「康介!攻撃しろよ!俺に当ててもいいか
ら、全力で攻撃しろ!」
「それは……」
弘前にとっては苦渋の選択だった。
せっかく出来た神崎をこんなところで壊され
たくはなかった。
爪をより食い込ませると、今度は嘴で胸の上
辺りを狙ってくる。
あきらかに埋め込まれた石を狙っているよう
にしか見えなかった。
「くそっ、誰がお前なんかにやるかよっ!」
魔力を重いっきり練り上げると、一気に腹目
掛けて撃ち放った。
「ファイアーボール!」
ギリギリと肉に食い込んでいた爪が離れると
真っ逆さまに落ちていく。
地面に落ちる瞬間、トプンッと水の中に落ち
たような感覚に一瞬焦った。
すぐに周りの水は弾けて辺りが水浸しになっ
ていた。
「さんきゅ」
それが誰の魔法かなど、聞かなくても分かる。
礼を言うと、すぐに体勢を立て直すと、魔力を
練り上げたのだった。