第二十六話 料理長のこだわり
ナルサスが戻ってくると、今は使われていない
小屋を使ってもいいと言われたらしい。
「では、今から案内するからそこで寝起きする
ように」
「あぁ、それは構わねぇ〜がよぅ、このねーち
ゃんはあんたに用があるみたいだぞ?」
獣人族の男が指摘したのは、エリーゼの顔色だ
った。
あきらかに怒っているように見える。
「今日、奏と一緒に奴隷商に行ってきたんです
もちろん、何かあればすぐに対応できるので
心配は不要です」
「私が言いたいのはそんな事ではない。あんな
ゴミダメのような場所にカナデを連れて行っ
たのかという事だ!それも私を置いてだ!」
簡単に言うと、自分も一緒に行きたかったとい
う事らしい。
だが、最近は新兵士の訓練もあってか、あまり
離れられないのも事実だった。
ギルドの依頼もできる限り戦闘は避けてきた。
ナルサスだけだと心許ないと言う理由があった
からだった。
主に最近は採取依頼ばかりなので神崎のバフを
かける機会はめっきりなくなっていた。
「私が居るだろう!こんな獣人族など買わずと
も………私じゃ不服なのか!」
「それではありませんが…忙しいでしょ?」
「それは……」
「自分の仕事をして下さい。俺は奏と一緒に部
屋に戻るので」
ナルサスはエリーゼがそれ以上言う前に神崎の
手を引くとスタスタと歩いて行く。
「ナルサス、大丈夫?エリーゼさん、なんか怒
ってなかあった?」
「大丈夫ですよ。いつもの事ですから。」
部屋に戻る途中で小さな小屋へと獣人族の男と
子犬を案内すると、戻って行く。
後で食事を運ばせると、朝まで神崎はポーショ
ン作りに精を出していた。
「もうそろそろ寝ませんか?」
「うん、後もう一個だけ……よし!出来たぁ〜」
「お疲れ様、さぁ、寝ましょう」
そういうと、ナルサスは手の中のポーション
を取り上げると机の上に置き、抱き上げたの
だった。
机からベッドまではそう離れていなかった。
が、まさか抱きかかえ上げられて運ばれる日が
来るとは思いもしなかったのだった。
「なっ、ナルサス!?歩けるからっ……」
「大丈夫ですよ。奏は軽いので」
「いや、そう言う事じゃなくて……」
誰も見ていないからいいようなもので、流石に
こればっかりは恥ずかしかったのだった。
朝になると、獣人族の男はすでに起きており子
犬と戯れていた。
「おはようございます。よく寝れましたか?」
「あぁ、檻の中よりはいい」
「そうですか…何か足りないものがあったら言
って下さい」
「なら……服を頼みたいんだが…」
「それなら今日買いに行くのでまずはこちらを」
そう言って渡したのは、大きめサイズの衣服だ
った。
昨日はあまり時間もなく、日が暮れてきたせい
で、買い物どころではなかった。
今日は、獣人族の奴隷用の武器や、鎧、日常生
活に必要なものを買いに行くのだった。
「これ、朝食です。後で食べてください」
「そう言えば、昨日の肉……なんか匂いが違っ
てたんだが…」
「苦手でしたか?」
「いや……うまかった」
「それはよかった。今日は出かけるので、そこ
の井戸水は勝手に使っていいので」
「身支度は済ませておく。」
「はい、お願いします」
言う事だけ言うと、食堂へと向かう。
最近食事が楽しみになってきていた。
調味料もかなり再現したせいか、食事に気合い
が感じられた。勿論食事を楽しみにしているの
は神崎だけじゃなかった。
最近の料理長は特に気合いが入っていて、どん
どん料理にこだわりを見せるようになったのだ
った。
「あ、これ美味しいっ!」
「そう言って貰えると料理長も喜ぶだろう。
カナデに褒めて貰おうと、色々試行錯誤し
ているようだぞ?」
「そんな……俺は料理は食べれればそれでいいと
言う考えなので」
現代では色々な調味料があったので、考えもし
なかった。
こっちにきてから、食事の時のガッカリ感は半
端なかったからだ。
見た目だけはかなりいいのだが、味がついてこ
なかったからだ。
だが、今は違う。
気合を入れた分、成果を出していたのだった。