第二十四話 運命の出会い
いきなり出て行ってしまった神崎に、獣人族の男
は、納得したのだと理解した。
自分だけでここを出る気はない。
ちゃんとそう伝えたはずだった。
後ろに隠れるようにしている子犬を眺めると腕の
中に抱きしめる。
懐いているせいか、鼻を鳴らすと擦り寄ってきた。
「このまま人化出来なければいいのにな……」
これはこの男に本心だった。
人化できれば奴隷として売られる運命だったから
だ。
同じ獣人同士ならそれが獣人なのかそうでないの
かは自然と理解出来る。
まだ幼い狼の子供は親の顔も知らない産み落とさ
れたばかりの時にこの男に拾われた。
もし拾わなかったら、森で死んでいたかもしれな
い。
だが、ここで成長しても同じ事だった。
今度は人間の奴隷としてこき使われてしまう。
抜け出そうにも、男には奴隷紋が刻まれており、
主人によって簡単に殺す事が可能だった。
「どうしたらいい……お前だけでもここから逃
げられたら……」
「くぅ〜ん、くぅ〜ん…」
「悪かった…一人にはしないから…安心しろ」
頭を撫でてやると機嫌がいいのかぺろぺろと顔
を舐め出したのだった。
そんな折、いきなり奴隷商の主人が鍵を持って
現れたのだった。
「おい、出ろ!ご主人様が出来たんだ喜ぶんだ
な……あの主人ならお前達もいい暮らしが出
来るぞ?」
「なっ……俺は行かなっ……俺達?」
「そうだ、その子犬一緒だそうだ」
子犬を抱き上げるとそのまま通路を通って上の
部屋に出る。
そこにはさっき話した人間が待っていたのだっ
た。
「これは……どういう事だ……」
「俺が君たちを買い取ったのさ、主人、奴隷紋
の主人を俺にしたらそのまま連れ帰っても?」
「構いませんが……獣人族は普通の奴隷と違って
安全策を設けなければなりません。こちらを」
渡されたのは頑丈な首輪だった。
奴隷紋は主人を傷つけようとしたら発動し危害を
加えると同時に心臓が弾けるようになっている、
一種の呪いのようなモノだった。
それに加え、首輪には電気がつけられおり、悪い
事をしたり、いう事を聞かない時に躾ける為の物
だった。
「分かった。」
「では、書類は以上です。それと、こちらを…」
取り扱いに関してと、返品する場合、人間と違っ
て買い値の半額になる事が書かれていた。
それを受け取ると鎖を受けとった。
神崎と名乗った男によって、買われたのはまだ30
年とちょっとしか生きていない若者だった。
力も人間とは比べられないくらいに強く、人間を
も簡単に引きちぎる事が可能だった。
「後悔しても…知らねーからな」
「大丈夫だよ、さぁ、行こうか」
そう言ってそのまだ年端も行かないような青年に
付いて行くことになったのだった。