第二十一話 狼族の獣人奴隷
どの奴隷も身体の部位が欠損して居た。
「あの、みんなどうして怪我をしているんですか?」
「あぁ、知らないのか?それはそいつが何をやった
かによるんだ。例えば、そこの子供は手癖が悪く
人の物を盗んだのでな、片腕の先を切断してある。
重労働くらいなら腕がなくても出来るからな…そ
っちは逃走壁があってな…両足の腱を切ってある
んだ」
「そんな……」
こんな酷い事が許されるのか………。
そう言おうとして、ナルサスに止められた。
この世界ではこれが当たり前なのだ。
むしろナルサスが御体満足で売られていたのは抵抗
せず、されるがままだったからだった。
身体に付けられた傷はどうしようもないが、それ以
外に部位の欠損は免れたというわけだった。
「できれば戦える方がいいのですが…」
「う〜ん、戦えると言いますと…こちらがいいかと」
言われた方を見ると、大きな身体を投げ出した狼獣
人が居た。
「おとなしくて、無口だが、まぁ〜何を考えている
のかは分からんがな…」
見た目にも部位の欠損はないように見受けられた。
ただ、檻の中から睨みつける視線があきらかに敵意
を孕んでいた。
「奏……これはやめておいた方がいいかもしれない
ですね。ここまで敵意を向けられては、いくらか
奴隷紋でいう事を聞かせられると言っても……」
「少し話してみても?」
「えぇ、えぇ、構いませんよ」
「かなでっ…」
「大丈夫だから、ちょっと一人にしてもらえる?」
そう言うと、商人とナルサスは少しその場を離れた
のだった。
暫く歩くと、商人がポツリと言葉を漏らした。
「いい主人に出会えたのですね」
「あぁ、あの人は俺の命より大事な主人だ」
「そう………ですか……では、あの獣人もそなると
いいのですが……」
「何を言って……」
何か訳ありなのか、目を伏せると、出て行ってしま
ったのだった。
残された檻の前で、神崎はしゃがみ込んだ。
「こんにちは、君名前を聞いてもいい?」
「……」
「俺は神崎奏、かなででいいよ。君はここから出て
俺と一緒に来るつもりはない?」
「……………どうしてそれを聞くんだ?」
やっと話したせいか、くぐもったような威嚇を含ん
だ声だった。
「勝手に連れていくのはちょっと…その気もないの
に戦わされるのは嫌かなって。食事はちゃんと取
れるし、傷だってポーションで治すよ?」
「傷を治すだと?…ケッ、獣人にお高いポーション
を使う人間がどこにいるってんだ」
「ここにいるけど?」
けろっとした顔で言うと、目を丸くして居た。
さっきまでの威嚇した態度が緩むと笑い声が上がっ
たのだった。