第十六話 スープのレシピ
この世界では野菜をドロドロに煮込んだスープか、
薄味のスープが主流だった。
そこに、乾燥したキューブにお湯を注ぐだけで出
来るスープを披露したのだった。
「これは……何と……」
「美味しいですわ」
「えぇ、朝も飲みましたけど、こんな簡単に手軽
なスープが飲めるなんて……」
「カナデくん、これはどうやって作ったのかね?」
「はい。これは生活魔法さえ使えれば誰でも作れ
るものです。野営などの外で食事をする時にお
湯だけなので、便利かと思って作りました」
そう言うと、使った材料とレシピを書いた紙を
領主に渡したのだった。
「本当に不思議なものだな……普通の生活魔法だ
けでここまでとは……このレシピを買い取って
もいいだろうか?」
いきなりの申し出に、驚いたのだった。
後ろにいるナルサスを振り返ると、力強く頷かれ
、すぐに了承した。
「はいっ。もちろんです」
こうして、遠征時の食事が変わっていく事になる。
勿論、生産はルイーズ領が一手に担う事で大量生
産も可能となった。
そして、その味が王都へと伝わるまで、そうかか
らなかった。
もちろん、それだけではない。
硬いパンが主流で、よく噛みながら食べる食生活
も、柔らかくふっくらしたものに変化していった。
それらは全てルイーズ領の職人の手によって開発
された事になっている。
その度に、神崎の懐には多くの金貨が貯まってい
ったのだった。
もう冒険者としてやっていかなくても十分な量の
お金を稼いだ気がする。
「カナデにこんな才能があったとはな〜。もう冒
険者なんて危ない事はやめて、こっちで生計を
立てたらどうだ?そうすれば奴隷なんて要らな
くなるし…」
「ダメです。俺は冒険者として生きていくって決
めたんです。それにナルサスには色々手伝って
貰ってるし…」
まだエリーゼはナルサスの事を認めて居ないらし
かった。
正確には、自分が神崎と一緒にいられない時間も
側にいるナルサスに嫉妬しているだけだった。
いわゆるただの八つ当たりだ。
訓練中も、他の兵士たちよりも強く当たったり、
訓練内容も厳しくなる。
それでも、しっかりついて来るのだから、認め
ざるを得なかった。
これが、元王子とは信じられないだろう。
見た目だけなら、納得しただろう。
だが、今は主人の為に自分を鍛えているのだ。
それは並大抵の決意ではなかった。
「ナルサス、少し付き合え!」
「はいっ……」
訓練が終わると、エリーゼから声がかかる。
今日はただの鉄の剣ではなく真剣を渡してきた。
「今日の訓練はコレでやる。勿論、私もだが…
オーラは使えるか?」
「いえ…使えなくはないのですが……」
「魔力の事だな。ならこれを使え」
訓練用の魔力増強に使われるブレスレット型の
魔道具だった。