第十五話 実食
この世界に豚骨スープと言う概念はない。
それにコンソメスープという名前すら知られてい
ない。
そこで、鶏ガラと豚ガラを使って味を表現したか
ったのだ。
食事のバラエティを増やすにはまず味を皆が知る
必要がある。
そこで、夜中にこっそり調理場を借りて火を起こ
すと煮込んでいる。
この世界では魔法が使える。
乾燥や、煮込む時に魔法を重ねる事で時間を短縮
したり焦がさず焼き上げたり出来る。
一般人には魔力が少なく、生活魔法しか覚えられ
ないらしい。
稀に魔法の才能に恵まれる人もいるが、それはご
く僅かに過ぎない。
そこで魔力の少ない人でも使える生活魔法だけで
作れるようなものを考案したかった。
そして、もし旅に出た時でも美味しい食事が出来
るようにと、お湯を入れるだけで溶けるような物
を考えていたのだった。
現世ではフリーズドライのスープなどがある。
ここでは急速冷凍や、乾燥などは魔法で行える為、
時間を短縮できる。
あとは時間経過が遅くなるマジックバックなども
あるという。
「こっちも乾燥してくれる?」
「分かった。が……こんな骨を煮込んだ物を誰が
食べるんだ?それにこの野菜って皮とか芯だろ
う?」
「うん、それからいっぱい栄養素や旨みが出るん
だよ?それに。アクも取れるし一石二鳥だよ」
神崎の言っている事は、全く理解されなかった。
まぁ、それも仕方のない事だ。
まずは自分で味わうまではわからない。
勿論、神崎自身、一回で上手く出来るとは思って
いない。
何度か試すように、アイテムボックスの中には大
量の骨がストックされているのだった。
「もう、このくらいでいいか?こっちは濁ってき
たぞ?」
「うん、うん、いい匂い。こっちはアクを取って、
野菜クズも出しちゃおうか!」
出来上がった汁を容器に移すと再びナルサスには
乾燥と凍らせる魔法を頼む。
何度か交互にかけて貰い、一応それらしい物を完
成させられたのだった。
朝までかかると、見ていた見物人はすっかり居な
くなており、欠伸をしながらアンネが椅子にもた
れかかっていた。
「寝ててくれてよかったのに…」
「目新しい事に興味があったのではないですか?」
「そう…なのかな?」
「奏は知っているものを表現しようとしているか
もしれませんが、こちらでは全くの未知のもの
なんですよ」
言われてみれば、使わない部位で何かやっていれ
ば気のなるのも通りだった。
「後で皆んなにお披露目するけど、その前に…」
「お湯はこちらにあります…」
「用意がいいね?」
「はじめに言ってましたからね。お湯を入れれば
すぐに出来る即席のスープだと…」
「へへっ…では、実食してみようっ!」
乾燥したキューブを手に取るとひとかけらお湯に
入れた。
お湯に溶くと卵がフワッとして、あっという間に
溶き卵のコンソメスープが出来上がった。
クンクンと匂いを嗅いでも、悪くない。
ズズッと吸ってみると、少し臭みは残るが現世で
味わっていた味に近いものができていた。
「これは……美味しいですね……」
「うん、ちょっと臭みが残ってるけどいい感じ
だよね!」
豚骨スープの方も味見をしたがそっちには干し
肉も入っている。
あとは乾燥させた麺が入れば満足だった。
匂いを嗅ぎつけたのか、さっきまで寝ていたア
ンネが目を覚ました。
「この匂いは……お腹が減りますわ〜」
「おはよう、アンネ。」
「おはようございます、カナデ…それは何です
の?」
ナルサスと一緒に飲んでいるスープをみると、
お腹がぎゅるるっと鳴ったのだった。