第三話 投獄
部屋に戻ると、丁度訓練を終えたナルサスが戻っ
てきていた。
遠征では被害は皆無だったという。
実際は、大怪我を負った兵士は何人もいたらしい
が、救護班が持ってきたポーションで、大怪我も
たちどころに治り、死者が出なかったという。
対処が早かったというのも、その理由の一つでは
あったが、一番の理由は高級ポーションを持たせ
てくれた領主様の采配だと言われていた。
「ナルサス、戻ってたんだね」
「えぇ。奏はどこに行っていたんです?」
「あぁ、ちょっと離れの様子を見に…ちょっと今
から付き合ってくれないかな?」
「あの女に会いに行くんですか?俺は反対です」
「うん。でも、どうしても知りたいんだ…だから」
神崎の意思が固い事を知ると、ナルサスは剣を腰
に下げると、ドアを開けた。
「俺も行きますよ」
「うん…ありがとう」
地下牢はどうしてこうもじめっとしているのだろ
う。
ナルサスと初めて会った時も、こんな感じだった
のを思い出す。
「大丈夫か?奏、やっぱり引き返すか?」
「大丈夫……行こう」
奥には収容されている犯罪者が囚われていた。
その中に一際煩い牢があった。
「ちょっと出しなさいよね!私はあんた達に呼ば
れたのよ?こんな事してただで済むと思ってる
の?」
「こんにちわ。加藤夏美さん」
いきなり声をかけてきた幼い少年に、夏美は罵倒
をやめた。
「あらぁ〜可愛い坊やじゃない〜。お姉さんと気
持ちいい事しない?」
「黙れ!このまま首を刎ねられたいのか?」
近くに控えていたナルサスが剣を抜いていた。
「あら、こっちもいい男じゃない?」
夏美には悪びれた様子は全くなかった。
「さっき河北朱美さんに会ってきたよ…彼女は
…………」
言いかけて止めた。
言いたくなかった。
一応は同じ世界から来た人間なのだ。
いくら異世界だからといって、何をやってもい
い訳ではない。
「なんで友達にあんな事したんだ?」
神崎は言葉を選びながら話した。
すると夏美は興味なさ気にこちらをチラッと見た。
「友達?あの子が?……あっははははっーー!い
やだわ。あんな子と友達?私が昼夜犯され続け
ていた時、呑気に騎士達と戯れていたのよ?」
彼女から感じるのは怒りの感情だった。
クラスメイトに助けて貰えなかった事への憤りだ
ろう。
城の騎士の話では、選抜隊として数人がダンジョ
ンへ潜っていって、帰ってきたのは長野をはじめ
とした3人だけだったという。
そこで置いて行かれたのだろう。
「彼女を恨むのはお門違いじゃないのか?恨むな
ら一緒に入った長野達だろ?」
神崎の言葉は至極真っ当だった。
だが、今の夏美に届く事はなかった。
「煩い、煩い、煩い!あんた達のような恵まれた
人間に何が分かるのよ!私はね……私は………」
「神崎奏……彼は?」
「……」
言葉が止まる。
その名前には、覚えがあるのだ。
「そうね……あいつは……いじめがいがあったわ。
何度痛めつけても平気な顔して……むかつくの
よね〜……いっそ消えない傷でも残してやれば
よかったわ。あんな惨めな姿にされても、あい
いつの目だけは………死んでなかったんだもの」
彼女は自分よりいい境遇の人を壊したかったのだ。
地に落として、眺めたいだけだったのだ。