第二十四話 未曾有の危機
エリーゼ達遠征組みが出発して数日。
平和そのものだった。
決闘騒ぎがあった後は、ギルドの方でその後の
処理を受け持ってくれたらしい。
それ以来、長野や、上島を見かける事はなくな
った。
「はぁ〜……」
「ため息か?何か悩み事でもあるのか?」
後ろから声をかけられると、ドキッとして心臓が
高鳴る。
「脅かさないでって…」
「悪かった。何か真剣に悩んでいるみたいだった
からつい……」
「うん…ちょっとね。長野達は前の姿のままだっ
たからさ……俺はこんなに別人になっちゃった
のに」
他の生徒達も、そのままの姿なのだろうか?
なら、どうして自分だけ違うのだろう。
見た目的にはちょっと…顔は可愛いし、文句が
あるというわけではないが…腕力が無さすぎる。
元々、体格がいいわけではないが、それでも今よ
りは体力も腕力もあると自負していた。
「どうしてこうなっちゃったんだろうなって…」
「奏は、今の姿が不満なのか?」
「不満っていうか…俺はもっと普通で…モブ顔で」
言われてみれば、ナルサスの方が男としてイケメ
ンだった。
こんな顔だったら……。
そう思えるほど、美しい。
これで王族だったら誰もが見惚れるほどだと思う。
奴隷であってもそうだった。
あのジメジメした地下で汚物の臭いが充満した場所
で出会っても、綺麗な顔だけは誰が見ても変わらな
かっただろう。
「いや、なんでもないよ。ないものねだりをしても
意味がないしね。それよりも、俺ももっと戦える
手段を持たないと困るんだよな〜」
いつまでもナルサスに頼ってばかりではいかないの
だった。
ポーションが回復なら、毒は作れないのだろうか?
そう考えると、街に出かける事にしたのだった。
まずは知識を手に入れよう。
その為には、本を探すのが一番だった。
領主邸のある本はあらかた読んでしまった。
新しい知識を求めて、出かける準備をしたのだった。
「あーー!カナデはどこに行くんですの?一人では
危険ですのよ」
「大丈夫だよ、ナルサスもいるし」
「では、わたくしも同行しても平気ですわね」
「えっ……」
にっこりと笑顔で言うアンネには逆らえなかった。
数人の兵士とナルサスを連れて、街へと向かった。
これには、アンネも同行したせいで物々しい事に
なってしまったのだった。
「うちにある本とはどう違いますの?」
「あぁ、領主様の屋敷のは全部読み終わっちゃった
からね、新しいのを探しに来たんだよ」
「まさか、全部ですの?」
「うん……そうだけど?」
アンネの驚きは予想外だったらしい。
本の虫と言われるほど本が好きだった神崎には至極
簡単な事だった。
そんな二人が買い物へと耽っている時、ルイーズ領
近郊の森の中で異変が起きようとしていたのだった。