第十一話 油断を誘うこと
観客席から見ていてもハラハラさせられる闘いだ
った。
どこから出て来るか分からない攻撃をあらかじめ
感知して避けるなど、ただの兵士に出来る芸当で
はない。
ましてや、奴隷如きがやってのけるなど、前代未
聞だった。
「おい、あいつっていつもエリーゼ様と一緒に訓
練している奴隷だよな?あんなに強かったのか
よ?」
「それ、思った。俺じゃ、あんな攻撃かわせねー
よ」
口々に評価を改めなおしていた。
神崎の事は強力なシールドを張れる青年としか思
われておらず、ナルサスの主人としての認識しか
なかったが、攻撃をかわすだけなら、なんとかつ
いていけていた。
「ゴクリッ……ナルサスも飲んでおいて」
「はい……」
渡されたポーションを受け取ると喉に流し込む。
避けてはいても、やはり全部を完璧にとは言えな
い。
神崎も擦り傷のせいか動きが鈍る。
その度にポーションを少しずつ飲んだ。
服は破れたままのせいか、傷が治っている事は
相手からは見えない。
あとは、エリーゼさんが上島を無力化して残り
の二人を無力化するまで耐えるに限る。
こっちから攻撃に転じてもいいが、問題は神崎
だけに攻撃が集中してしまうのが難点だった。
今は、ナルサス、神崎、エリーゼと3人へと各々
3人へと向いているから避けられているが、こ
れが一人に向けば、すぐに捕まるのは必須だった。
そこへ、大男が突っ込んできていた。
獲物は大きなバトルアックス。
重量がある分、まともに受けたら剣が折れてしま
いそうだった。
「ナルサスはそっちをお願い」
「だが、奏が……」
「大丈夫、俺に考えがあるから……」
バフの重ねがけ。
これには魔力の減りが早い。
それと同時に、ナルサスへと援護もする。
大きな獲物が振り上げられた瞬間、目の前にシー
ルドを展開する。
ガキーンッ!
と当たる瞬間に、ナルサスが一気に距離を詰める。
だが、相手も歴戦の戦士だったかの即、後ろに退避
してしまった。
勘が鋭いのだろう。
それとも多くの戦場を渡ってきたのだろう。
身体中にある傷はきっと、その人生を物語っていた。
「ボスからの追加だ。その少年は支援職だろう?
それもかなりのてだれのようだな……降参したら
殺すのはやめて、俺らが死ぬまで使い潰してやる
よ?一生飼われて生きていられるんだ。どうだ?」
いきなりの申し出に、ナルサスの怒りが一気に膨れ
上がった。
「奏を飼うだと?ふざけるなぁーー!」
怒りで剣筋が単調になっている。
攻撃も見切られると、すぐに反撃を食らうと吹き飛
ばされたのだった。
「グハッ……くっ……」
「なんだ?弱いな……おい、そのガキを捕まえろ」
「なっ……」
ナルサスの目の前で、血が飛び散るのが見える。
避けきれない方向から来る刃先に一度でも当たれば
次から次へと避け切れずに、そのまま次々と身体の
あちこちを切りつけられたのだった。
痛みに耐えながら立ち上がるが、すぐに崩れ落ち
るように倒れ込んだ。
「まだだ……意識をしっかり持たなきゃ……」
気を失えればどんなにいいか。
だが、それはできない。
神崎が意識を失えば、バフの効果が薄まる。
起きている時と、眠っている時の効果の違いを実験
した事があった。
確かに、バフは持続してはいたが、少し弱まる事が
分かっている。
こんな時に、そんな事をさせるわけにはいかない。
倒れ込み、蹲りながらアイテムボックスからポー
ションを取り出し飲む。
もう動けないように見せながら、油断を誘うしか
この場を有利に進めるのは難しく感じたのだった。