第十一話 領主の娘アンネ
まずはびしょ濡れになった服を見るとすぐに着替え
を持って来てくれた。
「少しサイズが合わないかもしれないが、濡れてい
るよりはいいだろう?着替えて来るといい。」
「あ、ありがとうございます」
服を受け取ると開いて見た。
どう見てもスカートのような気がしてならない。
「あの…ズボンはないんですか?えーっと、俺これは
ちょっと……」
「こんな場所では男装しておく方がいいと思ったのか!
それは賢いかもしれんな、少し待っていてくれ」
何か凄い誤解された気がする。
確かに見た目だけなら、女子に見えなくもない。
だが、決して女ではない。
ちゃんとついているのだ…小さいけど……。
そのあと持って来てくれた服に着替えると、馬車の主に
会う事になったのだった。
馬車の中から出てこなかったので誰か分からなかったが、
中にいた人物は最初悲鳴をあげた女性なのだと分かった。
まだ若く、今の神崎と見ため的にも変わらない年齢に見
えたのだった。
「あの……このお方は?」
「私の仕えている主のお嬢様だ、アンネ・ルイーズ様で
ある」
「えっ……あ、えっと……」
どうしたら無礼にならないのか分からなかった。
姿勢を低くすればいいのか?
それとも、隣の騎士のように片膝ついて傅けばいいのだ
ろうか?
あたふたとしていると、さっきまで馬車の中で怯えてい
たとは思えないほどの笑顔で笑い出したのだった。
「そう、かしこまらなくてもいいのですよ?命の恩人に
こちらが礼を尽くさねばならないのですから……」
「そんな……俺は何も……」
「そんな事はありませんよ。エリーゼが前で戦えるよう
に私を守ってくれたではありませんか、感謝いたしま
す」
偉い人の娘さんに頭を下げさせるなど、いいのだろうか
と戸惑うと、突然エリーゼが声をあげた。
「アンネ様、このカナデ殿はいく当てもなく森の奥に捨
てられたのです。何卒領地にて恩を返してはいかがで
しょうか?」
「あら、それは大変でしたね。では、そのようにお父様
に進言したしましょう」
「ありがとうございます」
「ありがとう……ございます」
エリーゼに釣られるように頭を下げると、笑われてしま
った。
「それにしても…エリーゼ、お貸しするならもっと可愛
い服はなかったのですか?こんな男性用ではなく、わ
たくしのがあったでしょうに……」
「それが……カナデ殿がそれがいいと申しまして……」
「それは本当ですか?」
「あ、はい……動きやすい方がいいのです」
「なるほど、そうでしたか。では仕方がありませんね」
なぜか残念そうにしているのはなぜだろう?
それから、馬車についていくはずだったが、アンネの頼み
とあって、神崎は馬車の中に乗る事になった。
それもアンネの真横に座る事になったのだった。




