第十二話 我がご主人様
エリーゼは息を吐くと、バフが切れた事に気づき
報告書を書きナルサスに渡した。
「話はここまでだな…あとはカナデが起きたら渡
しておいてくれ」
「あぁ、分かった……それと、話してくれて助か
ったよ…俺はどこまでも不出来な王子だったん
だなっと気付かされたよ……」
「そうだな。今まではそうだが、今回はしっかり
してもらわないと困るぞ?一緒にカナデを護る
んだろう?それに……あの男達の事だが……」
エリーゼの言うことにナルサスも賛同し、頷いた
のだった。
最初に会った時、確かに違和感はあったのだ。
黒目黒髪。これは召喚された異世界人の特徴だっ
た。
それが合っているのなら、神崎とは同郷という事
になる。
だが、あの時の神崎の反応は懐かしむようなもの
ではなかったのだ。
あきらかに、驚いて後ずさるほどの何かが彼らの
間にはあったのだと思う。
それを察したので、3日という猶予を作った。
そしてナルサスはすぐに自分の後ろに隠したのだ
った。
これには二人とも神崎自身から聞かなければなら
ないと思っていた。
明日、ちょうど約束の3日目だった。
「朝、馬車で事情を聞く……いいな?」
「あぁ、分かった」
エリーゼが出ていくのを見送ると神崎の側に腰を
おろした。
可愛い顔して無防備に眠っている姿が、あまりに
も幼く感じた。
あの時会った青年と同じ年には全く見えない。
だが、神崎の判断力は間違いなく幼い青年が考え
た事とは思えなかった。
度胸だってある。
そして、何かをやり遂げる根性だって…ある。
少し頑固なところはあるが、仲間をとても大事に
するところは、この世界では甘すぎるところでも
あった。
だからこそ、護りたいと思ったのだ。
ナルサスには、もう王子という肩書きはないけれ
ど、それでもずっと訓練してきた剣術なら自信が
ある。
中途半端に生き残ってしまったけれど、神崎を護
る為に生き残ったのだとしたら、今度こそ主人の
為に命をかけようと思ったのだった。
「俺は奏の盾であり、剣になりますよ……」
この幼い主に一生ついていくと誓うと額にキスを
落とした。
最初は少女と見間違えたこの可愛い主人。
いつしか、狙われるようになるかもしれない。
今は領主の庇護があるからいいが、いつかはここ
を出ていくと言っていた。
いろんな大陸を旅したいと言っていた夢を、陰な
がら支えていきたい。
「俺のこと、こき使ってくださいよ。ご主人様」
神崎の前ではその呼び方をすると、嫌がられるが、
今だけは……
今だけは、そう呼びたい気分だった。