第十一話 戦争がもたらした結果
昨日の夜は、神崎が疲れ果てて眠った後も検証は
続いていた。
バフをかけてからの持続時間の測定と、その他効
果などの実証。
本当は訓練場などでやりたい所ではあったが、周
りの兵士達に見られるのは良くないとナルサスが
言ったせいで部屋での検証になった。
確かに、こんなものを兵士達が知ったらと思うと
気が気ではない。
バフの重ねがけは倍々ゲームのように力が増えて
いるようだった。
始めの一回で筋力という筋肉周りの構造自体が変
化し、いつもの3倍の力が出せる。
そこに二重がけされて、6倍の重さまで持てるよう
になった。
重ねがけはすればするほど効果時間は減った。
一番長い効果時間は一回だけの別の種類のバフと
の混合だった。
20分弱が限度だが、2倍で15分弱だった。
そして昨日の夜が3回がけで10分弱といった結果
に終わった。
「それにしても末恐ろしいな……これは」
「そうですね。そもそもこんな支援職聞いた事も
ないですよ。国がこの事を知ったら……」
「間違いなく連れて行かれるだろうな……賢者あ
たりが実験材料として使うかもしれないな…最
近では夜な夜な地下に籠って人体実験をしてい
るという噂も聞くのでな…」
「……賢者ですか……」
ナルサスにはいい思い出はない。
国が滅ぼされ、投降した妹も目の前で殺された。
ナルサスだけが唯一生かされて奴隷に落とされた
のだ。
「まぁ、お前にとってはいい思い出ではないだろ
うな……今も賢者を恨んでいるのか?」
「それは……わからない……」
ナルサス自身、もう恨みがないわけではない。
だが、もうどうしようもなく、国を復興できるほ
どの兵力も、味方もいない。
貴族に買われた時も、何度か挽回の機会を伺った
ものだが、誰も取り合ってくれなかった。
ただ、顔がいいからと、自分の思い通りの玩具に
したいだけだった。
王子としての力など知れている。
戦争の前ではちっぽけな人間など無価値だった。
剣が使えても、魔術の前では無力なのだ。
賢者の魔法は人が扱える魔術ではなかった。
他の国にも賢者はいると聞いていたが、たった
一人だけ例外のように巨大な魔術を使う者がい
るときいていた。
それが敵にいるとは思いもよらなかった。
どうして、あの時の敵国に選ばれたのが……。
ガルダ国だったのか?
どうして、国民を助けてはくれなかったのか…
「国民には重税を課したせいでみんな逃げたそ
うですね……きっと俺の事を恨んでいるんだ
ろうな……」
「そうか……知らなかったんだな……あの時、
私は丁度まだ冒険者をしていてな…王国の兵
とともにガルダへと行ったんだ。そして……
国民は一人残らず……亡くなったんだよ」
「……」
ナルサスの目が見開かれるのがわかる。
それもそうだろう。
国民はきっと逃げたか、重税を課されながらも
必死に暮らしていると思っていたのだから。
だが違ったのだ。
完全に、跡形もなく滅ぼされたのだった。
何をしたと言うのだろう。
ただ、貿易の時の関税をガルダもかけると言っ
ただけではなかっただろうか?
毎回上がる税率に苦しむ国民の為に、他国とも
同じ税をかけると告知して数ヶ月。
いきなり交易を止められ、戦争をふっかけられ
た。
謝罪に王子を差し出せと人質を要求され、王が
突っぱねたら、このようなことになってしまっ
たのだ。
「何が悪かったんですかね……俺が人質として
いけばまるく収まっていたんですかね……」
「いや、そうはならないだろう。多分だが……
生きてこの国を出ることはなかっただろうな」
「でしょうね……父上…母上…兄上……」
エリーゼだって、あの時の光景は忘れられなか
った。
あきらかに、惨殺としか思えなかった。
武器を持たない平民をいたぶる兵士達の顔が脳
裏に焼きついて離れなかった。
それから、冒険者を引退して地方領主の元に降
った。
そこでアンネ様が生まれたのだ。
新たな生命の誕生にこの方を一生守ろうと決め
たのだった。