第十話 バフの検証
身体がさっぱりすると、脳もスッキリする。
「さぁ〜寝るまでやるぞ〜」
魔力を増やす目的でナルサスへとバフをかけてい
く。
これは実験であって、私的な目的ではない。
ナルサスの方は、バフのかかった状態とかかって
いない状態との区別をどのくらい変わるのかを検
証していた。
部屋に持ち込んだダンベルで重さや俊敏さを測る。
もちろん、深夜なので音を極力立てないように気
をつかった。
コンコンッ。
「はーい」
「まだ起きているか?」
「エリーゼさんっ。えーっと、大丈夫ですけど」
「それならよかった。」
入ってきたエリーゼの姿はさっきまでの騎士姿
ではなかった。
薄い寝巻きに一枚羽織っただけの姿だった。
男性の寝室に入るのには不用心過ぎる姿だ。
「エリーゼさん!?」
「奏、慌てなくても、この人は強いからこんな
無防備な姿であっても油断はしない人だ」
「あ……そう言う事」
ナルサスの言葉で現実に戻された気分だった。
確かに、色っぽい気はするが、あのエリーゼさ
んだと思うと手を出す勇気のある人間は早々い
ない。
「えーっと、エリーゼさんはどうしてここに?」
「夜に伺うと言っただろう」
「あぁ……それなら今からやる所ですよ」
「わかった。私はおとなしく見学している事に
するから始めてくれ」
「あ…はい……」
あまりにじっと眺められるとこちらが緊張して
くる。
ナルサスが平常通りなのが羨ましいくらいだっ
た。
バフを順番に重ねがけしていく。
「筋力向上、筋力向上、筋力向上……」
3回重ねると魔力の減りが早くなる。
一度の時とは比べ物にならない。
同じのを2回かける量と比べて、比較した分を紙
に書き出していく。
その横で、昨日はバフの2回分の重ねがけだった
のと比べて3回だとどれくらいの重さが持ち上が
るのかを試していた。
せっかくさっぱりしたのに、申し訳ない事をさ
せている気分だった。
「これは……」
「どうしたの?」
「どうしたじゃないですよ……ただの3倍って
わけじゃないですね……これは」
「どうなっているんだ!」
嬉しそうに検証するナルサスに、身を乗り出し
て聞くエリーゼさんは真剣そのものだった。
「カナデ、私にもかけてくれるか?」
「いいですけど……俺の魔力あまり多くないん
ですよ?」
「私も検証に手伝う!明日もやるのか?」
「……いいですけど。目的忘れてません?」
「早く、やってくれ」
ナルサスだけでやっていたはずが、いつのまに
かエリーゼさんも混ざる事になったのだった。
身体的疲れを取る為に、同時に回復もかけてい
く。
さっきと同じ事をエリーゼさんにもかけると魔
力がごっそりもっていかれた気がした。
程よい疲れに、回復の指輪をはめると横になっ
た。
「疲れたぁ〜」
「お疲れ様、ゆっくり眠って下さい」
ナルサスに言われるがまま眠りについたのだっ
た。
検証はバフ効果が切れるまで続いたらしい。
朝、起きると、二人が感じた効果が書き記され
ていたのだった。