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初恋の賞味期限

作者: 終夜深織

受験気に恋して振られて引きずる女の子のお話。短い。

初投稿なのでいいねとかコメントしてくれると嬉しいですー!

「別れてくれませんか」


ぱちくりと、私は目を瞬かせる。用意してきた言葉とか態度が頭の中で弾けた。

でも、言わないといけない言葉が何かは、知っていた。浮かべるべき、表情も。


「—―私も、同じこと言おうと思ってた!」


ああ、私は笑えてるかな。





「ちょっと告白してくるねー」

「行ってら......ごほっ待ってお前今なんて言った?」


6月某日。

今日、私は振られます!

笑みさえ浮かべて、私は階段を駆け上がった。




共学の中ではそこそこ名の知れた中高一貫校。恋されることはあれども恋することがないままに迎えた高校三年生の春。部活が塾に置き換わったくらいで、特に変哲のない日々を過ごしていた。

家から学校まで、チャリを飛ばして5分。始業間近を狙って、学年が上がるのにつれて遅くなっていく登校時間。その日は始業5分前に駐輪場に滑り込んで、昇降口まで急いでいた。

—―わお。

裏道に設置された自販機、その前に佇む人を見て、私は目を瞬かせる。私の学年にも何人かいるロン毛男子、けれど腰まである人というのは初めてお目にかかる。

—―きれいだな。

それが初めてで、そこで終わるはずの感情だった。


暑くなってきたからなのか、その人を見かけることが増えた。不思議と自販機以外でも、校内でも見かけるようになって、見かけると目で追っていた。靴の差し色で学年は分かった、私より一つ年下だ。同じ図書委員会だと知った時のうれしさったらない。文化祭くらいでしか活動はないから話すなんてないけれど、でも嬉しかった。

これが推しなのか、恋なのか。恋をしたことのない私にはわからなかった。


「ねぇ、推しと好きの違いって何?」

「えーなんだろ。近づきたいって思うのが恋で、遠くから眺めるのが推しじゃない」

「ほう」


狭い友人関係の中で唯一の恋愛経験者であり残念な男運の持ち主である友人の言を受けて、丸一日ほど考えた。

知りたいと、そう思うのが恋なら、きっとこれは恋だ。


「ちょっと告白してくるねー」

「行ってら......ごほっ待ってお前今なんて言った?」


実に受験半年前の6月末日である。玉砕するなら夏休み前、と決めるが早いが、彼と同じ学年の後輩に、高2だけ7限のある日を聞いて、さくさくっと玉砕することにした。

昇降口前で呼び止めて、人気の少ない方に移動する。


「一目ぼれしたので連絡先交換してくれませんか!」

「えっと、それはいいんですけど名前何ですか?」


......順番間違えた。

互いに名乗ってラインを交換して、その日は別れた。あれ私玉砕する予定だったのでは、と首を傾げたのはおはようとラインが来た翌朝のことである。

一日2通ずつ、朝と夜にラインをする関係が始まった。敬語がとれたのは二日目、驚くべき早さ、と思うべきなのか、これがイマドキの高校生の感覚なのか、全く分からないイマドキのJKである。

趣味は全然違った。私は読書で、彼はゲーム。部活は茶道と軽音と。共通点は選択科目くらいで、それも学年が違うから意味をなさなかった。親の職業の一致もあったけれど、子供には関係のない話で。あとはピアノだけれど、そんなに弾む話でもなく。それでもラインは途切れずに続いていた。最近楽しかったこと、楽しみにしていること。私はゲーマーの友人にゲームの話を聞き、ちょこちょこゲームの話をした。

期末テスト終了日に一回ご飯を食べに行くことになった。会うのは二回目、告白をカウントしなかったら初めて。SHR5分で終わると聞いていたのでそうラインしたら、まさかの20分延長した担任。許すまじ。20分待たせた。

並んで歩くと、身長が高いなぁと思う。私だって163cmと、女子にしては高い方なのに。

ファミレスに入って、向かい合って座ると、沈黙が落ちる。何か言わねば、と思うけれど、緊張しすぎて顔も正面から見られない。目を合わせようとしては斜め向こうに逸らす、を繰り返していたら、彼は笑い出した。


「緊張ほぐれたわ」

「うう、私年上なのに......」

「今同い年だから」

「むぅ」


確かに1月生まれの私と4月生まれの彼と、7月現在同い年だけど。

恰好つけたいのに全く恰好がつかない。これが惚れたもん負けというやつか。


「あー、あと、聞きたかったんだけどさ。何て呼べばいい?」

「えっ」


一瞬頭がフリーズする。そりゃあ、名前で呼んでくれたら、とてもうれしいけれど。

いいのか?名前呼びはハードル高いか??知り合って間もないのに図々しいか??


「えーと、その、名前、で、呼んでほしい、です......」


ごにょごにょと、しりすぼみになっていく私の声と裏腹に分かった、という彼の声は明朗だった。


「××」


ぼっと顔が赤くなる。


「――待ってだめだ破壊力高い」

「破壊力あるのw」

「あるの」


なんとなく悔しくて、彼の名前を呼んでみるけれど、うん、とそっけない。悔しい。

文化祭の話とか、楽器を始めたきっかけとか。1時間くらい話して、夏休みの予定だけ決めて、その日は別れた。

恋ってふわふわする。

学校までの帰り道、顔がにやつかないようにするので必死だった。




「ごめん、お待たせ」

「大丈夫」

「かわいい」

「待って、ほんとうに待って」


夏休みのデート、出合頭の誉め言葉に私は顔を覆った。暑さのせいだけではなく、顔が熱い。


「よし、行こう!」

「もう大丈夫?」

「うん」

「顔赤いけど」

「暑いからです!」


そう、と彼は含み笑いする。うう、年上の威厳......

夏休みが始まって、毎週日曜日に電話をしていた。前回の電話で惚れさせる、と豪語したので、今日は頑張る所存。帰りに駅で告白しようかなぁ、なんて電車の中で考えてきたのだ。

水族館で魚を見て、食べられるか否かを話していたら子供に奇異なまなざしで見られたり、ヒールでつまずきそうになりながら、午前中を過ごし、お昼ご飯を食べた。


「......そんなまじまじ見てどうしたの」

「あごめん。髪あげてるの、初めて見たから」


基本髪を下ろしている彼は、麺類を食べるときだけ髪を結ぶのだそうで、物珍しくてつい見入ってしまった。


「どっちもかっこいいね」

「......どーも」

「え今照れた!? 照れたよね」

「照れてないし」


可愛い、と私は笑う。


「このあとどうしよっか。観覧車乗る? あ嘘、なし、高いとこ苦手だもんね」

「いいよ。××好きでしょ、高いとこ」

「......大丈夫? 吐かない?」

「吐きませーん」


やいのやいの言い合いながら観覧車乗り場に向かう。暑さを覚悟していたけれど、冷房がついていて、中は涼しい。


「現代ってすごい......」

「××何時代から来た???」

「平成!」

「うーん」


普段通りの会話が途切れる。窓の外を見降ろし、だいぶ高いねとつぶやいた。


「やばいドキドキしてきた」

「私がさせたかったどきどきと違うんだけどw」

「――××」

「ひゃい」


噛んだ。


「その、話してて、かわいいなって思って......告白の返事してなかったというか、聞かれてなかったというか。その、付き合いませんか」


うんともはいとも言えなくて、私はただ首を縦に振った。


「っあー緊張した!××すごいな、これ初対面でやるって」

「夏休み前に振られようと思ってたの!」


こんな展開は予想してなかった。愛おしさで胸がいっぱいになって、私は俯いた。


「――好きになっちゃったんだもん」

「......いろいろ反則でしょ」

「へ?」


反則の中身は教えてくれないまま、観覧車を降りてひまわり畑を歩き、原っぱでかき氷を食べて、夏休み中にもう一回遊びたいねと話をして、その日はお開きになった。


「一か月だよ早すぎじゃない!?シチュエーションが少女漫画かよ!」

「受験前だよ大丈夫?」


彼氏できたーと言うと、突っ込む友人たち。私が心の中で思っていたことである。




付き合うのも早ければ別れるのも早いもので。

9月初めの文化祭、互いのシフトがかぶらないことかぶらないこと。しかもそのあと彼がコロナにかかって2週間近く学校に来ず、その間ラインもなし。もともと淡白なひとだとは思っていたけれど、気持ちが離れていくのがなんとなくわかって、それはもう焦った。

振り返ればうざいラインと、校内で話しかけようとする試み。必死すぎて目も当てられない。男は追いかけると逃げていくとはよく言ったもので、ああもうこれはだめだな、と思ってテラスに呼び出した。勿論、目的は別れ話だ。


そして話は冒頭に戻る。


10月頭に振られ、1週間ほど友達と後輩に泣きつく。実に面倒な友人/先輩である。持つべきでない人物筆頭を名乗るべきかもしれない。


泣いたら吹っ切れた、なんてことは全くなかった。家が学校から近いのと、月曜日が市立図書館の休みなのと、二つの理由で週に一度は学校に行き、後輩とご飯を食べて受験むりーと嘆き(迷惑)、一緒に家路をたどる3学期を過ごした。その間元カレとすれ違ったり出合頭に衝突したりして、まだ好きを捨てていないことを自覚するたびに泣きたくなった。


まぁ勉強はしていたので無事志望校に受かり、晴れて春から大学生。それでも初恋なのか執着なのかもはやわからなくなった感情はくすぶったまま。捨てられないと諦めた、この想いもいつかは枯れるだろう。枯れてもきっと忘れられないけれど、いつか泣きたいものじゃなくて、心温まるものに変わるかもしれない。


大学での目標はふたつ。

留年しない範囲で遊ぶこと。

そして、恋をすること。

おしゃれをして、可愛くなって、とびっきり素敵な人を愛して、愛されて。


そうして笑って言うのだ。


「17歳の私へ、私は今、幸せです」


と。




初恋の賞味期限が切れるまで、あと


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