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迷い人は迷宮城に捕らわれている  作者: ビターグラス
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不自由な自然 3

 明途に衝撃波が襲い掛かる。体に痛みはないが、自身の体が多少、軋んでいるような感覚はある。前に跳んだおかげで、相手の体に押しつぶされることもなく、彼は草の上でヘッドスライディングをかます。黒い服で目立たないが、草の上を滑ったせいで、服の前面に緑色の汚れが付いている。今の彼にそれを気にすることができるほどんの余裕はない。今の衝撃のせいで、彼の戦う決意は既に揺らいでいた。


「とにかく、まずは逃げる!」


 彼は自身の脳みそに命令して、足を必死に動かす。再び、ジャンプされれば、確実に潰される距離だろう。彼がそう考えていると、相手が再びジャンプしたような音が聞こえた。彼は後ろを少しだけ振り向くと、やはり、敵が宙にいる。先ほどよりも近い距離で飛んでいるのはわかっていて、彼はもはや、全力疾走を越えるような速度で走っていた。再び、衝撃音と衝撃波が彼を襲う。それでも、何とか致命的なダメージを受けることだけは避けることができていた。また、彼は森の中を走る。


 薄暗い森から離れて、森の中でも光がさしている方に移動していた。光の中でも、相手は動いていて、何度も何度もジャンプされて、彼はその度に、前に跳んで何とか、攻撃を回避していた。


「体が大きいだけのくせに。いや、大きいからこそ、あの威力なんだろうけど……」


 彼の体は土と草まみれになっていた。敵の方を見て、相手が再び飛び上がろうとしているのが視界に入る。彼はそこで逃げるのをやめ、反対方向に走り出した。反対方向、つまりは敵のいる方に走り出していた。敵が彼めがけてジャンプした。彼はそれを見ても進行方向を変えることはなかった。そして、彼は相手が跳んでいる下を通っていた相手の巨体の影の下にいるというのは、かなりの恐怖を感じたが、相手が自分の考えた位置にすぐに降りることができるわけではないことに気が付いたのだ。ジャンプする前に、着地地点は決まっていて、そこに降りるだけなのだ。そして、着地地点は、彼がいた場所だ。相手が跳んでから相手の方に行けば、確実に体重に押しつぶされることはないだろう。


 相手が着地する前に、彼は振り返った。


「火よ、ファイアバレット!」


 彼は手を相手の方に向けて、魔法を詠唱する。彼の周りに火の玉が出現して、それが相手の方へと飛んでいく。火は確実に、相手の体に着弾した。火が一瞬、大きくなり、相手の体に焦げ跡を残していた。不思議なことにその火の玉が森の草木に当たっても、引火しなかった。それは幸いなことではあったが、もし引火していれば、彼も火の海に包まれるところだったのだが、今の彼にはそんなことを考えている余裕はない。


 火の球を当てられた相手は攻撃を受けたことを理解して、人の悲鳴のような叫び声をあげた。その声に彼は耳を塞ぐ。しかし、手で耳を覆ったところで、相手の悲鳴が聞こえなくなることはなく、頭痛がするほどの声量と高さだ。痛みが徐々に強くなる中、ようやく声が収まった。そして、彼の視線と相手の視線がぶつかっていることを、彼は自覚させられた。たった今、明らかに自分が目の前の化け物の敵に認定されたことを自覚した。ジャンプするのをやめて、手足を使って、身を低くして、彼に近づいていく。その移動の様子は、どうにも生理的に受け付けないような動き方している。彼は恐怖心や嫌悪感を感じる前に、足が敵から逃げるように動いていた。口から今にも大声が出そうだったが、声を上げてしまえば、パニックになることは理解していた。だから、彼は何とか叫ばないようにして走り続ける。しかし、それは裏を返せば、既に恐怖心が沸いてきているということでもある。彼に自分自身の恐怖心を自覚することはできない。


「はぁ、はぁ、うぁ、はぁはぁ、すー、はぁ」


 既に口から、恐怖から来る叫びが漏れかけているのだが、彼は自分の声にも気が付けない。今の彼は逃げることに必死だった。しかし、二つの足で走る彼と、手足で走る相手では、その速度が全く違った。相手の体の大きさも原因だろう。彼は相手の存在を自身の背に感じていた。恐怖心も既にピークだ。もう、抑えられない。彼がそう考えた瞬間に、後ろですごい音がした。何かが爆発したような音が自身の後ろで聞こえて、自身の恐怖心が抑えられた。振り返れば、今まで追いかけてきていた相手は地面に埋め込まれるような勢いで倒れている。化け物は手足を動かして身を起こそうとしているが、そうできない理由があった。化け物の上に、人型の何かがいたのだ。彼の視界の中で、その人は自分を見ていた。

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