鉄の像 4
彼自身が建てた鉄の壁があっさりと切り裂かれて、相手の剣が自分を狙っていることは誰にだってわかることだろう。彼は相手の剣の攻撃範囲から逃れるために、相手に背を向けてダッシュで逃げることにした。彼が逃げると、その背面で何かが風を切る音が聞こえてくる。それは後ろを確認せずとも剣だということは理解できていた。壁際に追い詰められても、彼は相手のいる方向と反対の方向に走る。しかし、相手は距離を測ることができないせいで、相手の剣が壁を擦りながら振りぬかれていた。剣は部屋の壁を貫通することはできないようで、相手の剣の振りも途中で止まっている。しかし、今の彼にはそれを観察する余裕はない。とにかく、相手の剣に対応できる何か、策を考えなければ、この状況が好転することはないだろう。彼はそのまま逃げ続ける。
「つ、土よ。アイアンピラーっ」
息が上がりながら、彼は魔法を詠唱する。イメージが先ほどのままで、後ろ見ずとも、鉄の柱が相手の体を下から押し上げていく。相手の動きが一時的に強制的に止まっていた。柱の天辺に体を持ち上げられて、今度は相手を天井に叩きつけるようにして柱は伸びきった。相手を天井に打ち付けた音で彼はようやく、後ろを振り返る。既に、壁際を移動して、隣の面の壁に到達していた。そこから、相手の状態を見て、要約足を止める。恐怖があったことを今更ながらに自覚して、手が震えているのを感じていた。相手が天井に叩きつけられたせいか、相手は剣を手放していた。地面に片方の剣が突き刺さり、もう片方は面を地面に叩きつけて壊れていた。
彼が魔法の込めていた魔気がなくなり、柱が消失する。相手は支えがなくなり、地面に引かれて落ちていく。体を地面に打ち付けて、轟音が部屋に響く。相手は倒れた状態で、手を地面について体を支えていた。足のない腰だけの部分から、火を噴いて、相手は空中へと戻った。しかし、その手には武器はない。
相手は地面に刺さっている剣を引き抜こうとしたところで、爆発の魔法を相手の手にぶつけた。手だけであれば弾くことができるほどの威力で、相手は剣を手にすることはできなかった。彼は続けて爆発の魔法を剣身に放った。剣は地面から引っこ抜けて、くるくると回転していた。その剣は相手の方に飛んでいく。回転の速度を徐々に上げていき、その状態で相手にさらに近づいていく。相手はそれを回避しようともしない。それどころか、飛んできた剣に手を伸ばしていた。回転する剣が相手の掌に触れた。剣は相手の手に弾かれて、反対に回転し始めた。剣は誰にも取られないまま、地面に打ち付けられて、剣身が大きく欠けた。その剣も使い物にならないだろう。
相手は周りの武器を確認するように、床を見ていた。剣が使えないことがわかると、置いてある斧の方へと移動して、それを手に取った。そして、すぐにその斧が彼に向かって振り下ろされる。彼は相手が斧を振り上げた時点で、全力で走っていた。そのおかげで、相手の攻撃にさらされることはなかったが、その衝撃波どうしても回避しきることはできなかった。驚異的な剣はどうにか壊すことができたが、相手の斧も大剣も脅威ではある。だが、目で追うことができるだけましだろう。彼はそう考えながら、逃げ続けるしかなかった。
彼逃げながら、地面に転がっている折れた剣を有効に使えないかと考えていた。人間が持つには明らかに大きいものだが、魔法で弾き飛ばしたり、持ち上げたりする分には使用できるくらいのサイズだろう。しかし、それらを使用して攻撃しようと思えば、相手をその近くに移動させなければ相手に当てるのは難しい。さらに持ち上げたり、弾いたりして使用するという作戦を使うのならば、ある程度の方向を決めるくらいしかできない。相手に当たるかどうかは、運しだいといったところだろう。幸いにも部屋の大きさは相手の巨体には狭いくらいの大きさで、すぐに折れた剣の近くに移動できる。
「風よ。ブロウフロウ」
彼が新たな魔法名を詠唱すると、彼の回りに薄緑色の、風の魔気が流れて、それが折れた剣先の方へと流れていく。剣の下から風が渦巻くように移動していく。かけた剣を持ち上げて、そこに風が回転する勢いをつけていく。徐々にそれは加速しながら、上に持ち上げられていく。近くにある瓦礫も一緒に持ち上げながら、巻き込んだ全てものを加速させていく。そして、渦巻く風の範囲を外れるくらいに持ち上げると魔法の力で加速したそれらが解放されていく。渦巻く風を中心に欠けた剣が鉄の像に向けて飛んでいく。




