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迷い人は迷宮城に捕らわれている  作者: ビターグラス
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死なずに次に 2

 廊下に戻っても、廊下の様子は変わらなかった。薄暗い廊下が続いているだけだ。彼は盾と斧を持ったまま、廊下を進むことにした。暗く長い廊下には何もなかった。そのせいで、彼は自身の思考に集中し始めていた。特に考えるつもりはなくとも、思考が勝手に動いていく。それは、自身の記憶のことだ。


 記憶喪失になって、ここまで少しではあるが、知識と記憶がよみがえってきているという自覚はある。それはつまり、記憶喪失になる前に何かしていて、そこからこの場所に来たということになるだ折る。元の自分が何をしていたのかは全く分からないが、武器の知識が蘇るということは、武器屋か、それを扱う武器を扱っていた戦闘を生業にでもしていたのかもしれない。魔法の知識もあることを考えると、戦闘していたのかもしれない。


 自分の過去を一度気にしてしまうと、さらにその過去が気になってくる。今の彼の中にある記憶は全て知識に元ずく記憶であり、彼自身が何か、行動を起こしているような場面は思い出すことができていない。そう思えば、それが不安に繋がっていく。自分が何者なのか、それがわからなければ、自分の存在も疑いたくもなるだろう。だが、幸いにも彼には自分が記憶喪失だという自覚があり、過去の記憶が戻るかもしれないという希望があるため、そこまで強い不安感に苛まれることはなかった。


「とにかく、このまま進んでいけば、いずれ思い出すはずだ。……この先がどれだけ長いのかはわからないが、進むしかないな」


 薄暗い廊下を彼は警戒しながら歩いていた。警戒していても、廊下の先にも後にも、生物や何かが動いているような気配は全くない。何もないということが、かなり不安だった。いつ何が出てくるかわからず、何か出てくるなら、その手掛かりを認識できていないことが不安の原因だろう。その状態が続けば、彼の精神も不安定になるだろう。


 彼がしばらく歩ていると、そこでようやく何かの音が聞こえた。その音は金属を叩いているような音で、それが連続して聞こえてきていた。彼はその場に留まり、周囲を警戒する。金属の音が聞こえ続けているだけで、その音を出している何かは全く見えない。彼は廊下の壁を背にして、少しだけ身を屈めながら辺りを警戒し続ける。次第に音が大きくなってきていた。しかし、廊下の両端には何も見えていない。音が大きくなるにつれて、その音が、廊下に響くものではなく、壁の向こうから聞こえてきていることに気が付いた。それもかなり近くであり、それに気が付いた時には、それと距離を取ることはできなかった。彼が気が付いたその数舜後には、壁をぶち破って、音の主が出てきていた。動物のような四客の足を持ちながら、上半身はしっかりと人型で両腕もついている。しかし、その体は生物のような質感は全くなく、ただただ金属でできていた。顔の部分には、赤いランプが一つだけついていて、目にも見えるそれが、彼を見ていた。彼はそれの見た目と、登場の仕方に体を動かすことができずにいた。あまりの衝撃的な登場の仕方だ。そして、それと同時に、頭に痛みが走った。軽く頭を押さえて、目の前にあるものの知識が蘇ってくる。金属でできている自動で動くものがロボットだということを思い出す。そして、ロボットが人間を助けるものであるが、その反対に人間を大量に殺していることも思い出す。目の前のそれが人間を助けるものではないことは明らかで、目の前のそれが自分に敵意を向けているのは明らかだった。


「くっそ……」


 そもそも彼の知識の中では、人間が一人でロボットに勝つことは不可能だった。しかし、彼の記憶の中のロボットと戦っている人たちは魔法のようなものは使っていないのだ。魔法の代わりなのか、何かを射出する小型の道具を使って戦っている。その道具が何かはわからないが、今自分の手元にそれがないのは確かだ。それがなければ倒せないのか、魔法を使えばロボットを倒せるのか。それもわからないが、ここで戦わなければ、確実に死ぬだけだ。これも化け物の一種だと思えば、戦えないこともないだろう。見た目の話だが、生物に攻撃する時よりも、その抵抗がないような気がしていた。彼は硬直していた体を意識的に動かして、目の前のロボットと戦うことにした。盾を構えて、斧を握る手に力を入れる。ただの斧だが、頭の部分が鉄でできているため、目の前のロボットにも勝てるかもしれない。彼が戦闘態勢を取るのを見たせいか、ロボットの体の一部が開いて、そこから、二本の棒が出てきた。ロボットが片腕で一本ずつそれを握って引き抜くと、それが剣だとわかった。ロボットは二本の剣を構えて、臨戦態勢となった。

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