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なろうラジオ大賞5参加作品

ひきこもりたまご

作者: 白夜いくと

『なろうラジオ大賞5』参加作品。

テーマは「たまご」です。

(引きこもりは、俺と向き合わなかった親の責任だ)


 キッチンで湯を沸かしていると、親が声を掛けてきた。


「たかし。もう私たちは限界よ……年齢的にもう……」

「はぁ、うるせっ!」


 弱った親を見るとイライラする。俺はいつも通りカップラーメンに湯を注いで部屋に戻った。何事もなかったかのようにラーメンをすする。汁まで綺麗にがぶ飲みした。


 長時間ゲームをしていると、トイレに行きたくなる。急いで立ったとき。俺の意識は突然『ブチっ!』という音とともに遠のいた。


 

 暗闇が広がる。


 あたたかい何かに触れている感覚がある。心地よかった。狭くて思うように首が動かない。


(俺はどうなったんだ?)

 

 しばらく黙って様子を伺うことにした。


 ……優しく落ち着いた声がする。


「目覚めて。私の愛しい子」


 は?

 もしかして俺、夢でも見てるのか。ピキピキと音がする。その音だけが不快だ。狭い空間を押すように足を動かす。ヒビが入ったのか、暗闇に僅かな光がさした。


 ちらりと見えた足元は、細っこい枝のようなモノ。人間の足じゃないと判った俺は考えた。きっと俺は、何らかの鳥類に成ってしまったのだと。俺は、『ブチっ!』って音と一緒に死んだ。そして今は鳥のたまごの中ってことか。


「早く産まれて来て」


 暑く感じてきた。動きたい衝動に駆られる。しかし、殻を破ったら最後。絶対に面倒になる。空飛ぶ修行とか嫌だ。なら、ひきこもっていよう。また何かに産まれ変わるだろう。一番楽なのを選ぶ。それがいい。


 ……焦った声がする。


「早く目覚めなければ死んでしまう。どうして出て来てくれないの?」


 無視した。声は続く。


「私のせい? 私がうまくあたためられなかったから……」


 声は続く。


「声を聴かせてお願い」


(……)


 コイツはどんな顔をしてるんだろう。少し首が動いてしまった。殻に大きなヒビが入る。


(危ない危ない、あと少しで顔が出るところだった)


「目を開けて……!」


 俺は、殻の隙間から声の主を覗いた。

 泣きながらたまごをあたためる、まつ毛の長いツルが居る。黄金に輝いていて美しかった。俺は圧倒されて体を動かしてしまう。


 ――――パリン!


 殻が割れた。


「たかしが目覚めた!」


 よく知っている声がする。気づけば俺は母親に抱かれていた。


 母親のぬくもりが心地いい。そうか。ずっと、俺をあたためてくれていたのか……向き合わなかったのは俺の方だ。


(現実でも目覚めなきゃな)


 そう決意した瞬間、薄暗かった病室に、光がさした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは良い、最後感動しました。 最後に感動がまっている作品を読ませて頂きありがとうございます。
[良い点] これは泣ける…… (´;ω;`) 現実世界でも、2重の意味で目覚めるんですね 素晴らしいラスト!
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