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第3話 ゆとりゆとり言ってるけど私たちはゆとり世代じゃありませんから!

「はい。こんにちは。十一歳になりました。十一歳でFIRE! 異世界生活ラジオ、パーソナリティの荒巻火憐(かれん)です。


 いやー。もう十一歳ですよ。そうなんですよ。今日誕生日なんですよ。誕生日おめでとうございます! 荒巻火憐さん! ありがとうございます! 荒巻火憐さん!


 もうね。今日はね、お伝えしたいことがたくさんあるの。そう! 誕生日なんかよりも大事な新メンバーの発表です! なんと冒険の途中で仲間に入ってくれることになりました。


 それよりも、なんか私ばっかり喋ってますね。異世界ラジオには台本がありませんから。じゃあ、なんか、『モノトーン』も喋って喋って。


 あれ。『モノトーン』が居ない。え? 新人さん何? 『モノトーン』はお腹が空いたから林檎を()ぎに行った? あの馬鹿! 十四時から配信開始するって言ってたでしょ。『モノトーン』は離れていったら見つけるの困難だから、分かってるのあいつ。自覚あるの? ……なんかパワハラ上司みたいになってしまいましたね。


 えーっとじゃあ。新人さんには自己紹介と共に、パーソナリティも進めて頂きましょうか。新人さんの──」


☆☆☆

☆☆☆


 始まりの森近くの休憩所。宿場町サイクス。


 の中の宿場。の中のある一室。宿場のメインカウンターには『黒望団』の文字。


 榊原(さかきばら)は椅子に座って、包帯を巻いたまま横になっている赤髪の女性の傍にいた。


 「俺も同じ布団で寝ていいか」榊原と思われるこちらも同じ赤髪の男性は、寝ている赤髪の女性に話し掛けた。


 「私、絶対安静って言われてるんだけど。ああ、そうか。スキル使えばいいか。こんなところでスキル使うのは勿体ない気がするけれど」


 「ここは宿場町だぜ。金なんてどうでもいいだろ。サブスキル『物質(エレメント)延長(リーチ)』」


 サブスキルを唱えると、ベッドだけが大きさが拡張されていった。空いた布団の片方に榊原は寝入り込んだ。


 色欲とかそういう理由ではないことは、長い付き合いのオキルドには分かっていた。


 飽くまで同じ立場で話をしたい──榊原とはそういう男だ。


 「俺の」


 「私のミスだ」


 榊原が口を開いて話し掛けようとした言葉を、オキルドと呼ばれた女性は遮った。


 「私のミスだ。順番を誤った。『(ソウル)脱出(バスター)』を使う前に『鑑定』を使うべきだった。相手がガキだと油断した。あと私の殺戮癖(さつりくへき)も災いした。本気で(なぶ)り殺そうと思っていたが」


 本気で殺そうと思っていたが。


 殺そうと目の前で脅しのような言葉を吐いたが為に、私が殺されるところだった。


 「ここで一生に一度しか使えない守護石を使ってしまうとはな。オートで発動しなきゃ私は恥ずかしくて死を選んでいたに違いないさ」


 「何が起こった。無線配信用のコンタクトレンズを再生してもなぜオキルドが失神するまでダメージを受けたのかがてんで分からない。あの盗撮少女が何か物理的な攻撃を行ったようには見えなかった。何があった?」


 「何が起こったのかは私にも分からなかった。すぐさま自分のミスに気が付いて『鑑定』を使った。殺されるまで数秒も無かったが、彼女の個人情報の少しは分かった。そして、私が倒れた原因も分かった。


 彼女の名前は御領(ごりょう)峯音(みねね)


 彼女の苗字は御領(ごりょう)だ」


 「……もしかしてオキルドって幸運(ラック)系のスキル持ってたっけ? 『八万奈落(はちまんならく)』とか」


 「そこまでじゃないだろ。ただ唯一のゲームクリアの『伝説』、御領(ごりょう)(さとる)の孫娘に出会ってしまっただけだ。私から攻撃しなければ何も起こらないただの邂逅(かいこう)で終わったはずだったんだよ」


 「関わりたくないな。幸運系スキル所持者、荒巻火憐。ゲームクリアの血統、御領峯音。二人が初っ端からタッグ組むことになったのか。これはゲームチェンジャーどころかゲームが破綻するんじゃないのか。もうあいつら無敵じゃん。……まだ時間はあるか」


 今の子たちはゆとりでいいなあ、とあの二人を見て思いましたね。ええ。思いました。


 ……これ、荒巻火憐を誘うどころか討伐のクエストが出そうな勢いだな。憲兵隊が動くんじゃないかな。でもなんか悪いことをしたかと言われればそうでもないしな。


 それに御領だしな。あのじいさんが絡むとろくなことにならない。


 「マゼランってさ。あいつ地球一周したとか吹聴されているけれどフィリピンで死んでるんだよな。あいつ地球一周してないわけよ。なのに世界中の小学生に『地球一周した初めての人間ってだーれだ』って訊いたら『マゼラン!』と答えるわけよ。俺はその事実が許せねえんだよな」


 「それはフィリピンで決闘に巻き込まれたマゼランの意志でもなんでもないのでは。遺言で『地球一周したのはこの俺マゼランだ。それ以外が名を遺すなど許さんぞ』とか言っていたら悪人で間違いないと思うけれどね」


 ちょくちょく榊原は世界史の話を交ぜ込んでくる。私にも無駄に世界史の知識が付いてきてしまった。


 「御領のじいさんもさ。なんであいつ一人だけがゲームクリアの称号を手に入れちゃってるわけなのさ。御領悟だけが幸運系スキル最上位『神』を与えられたのはおかしいと俺は思うんだけどな」


 今回の戦闘であっても御領峯音は死んでいたはずだろ。あの隠し撮り娘。


 「そういえばさ」榊原は天井を見上げながらつぶやいた。


 「『モノトーン』が死んでいなかった。恐らく荒巻火憐のスキルが恐ろしいくらいに変化している」


 「どうやって知ったのさ」


 「Tubeのかれんちゃんねる」


 「ゆとりって良いな。羨ましいわ。自分からスキルとか配信して生き残れるやつなんて普通に考えていないはずなんだけどな」


 だからみんなギルドとか作ってお互いだけに自分の情報を共有するもんなのだけどな。


 荒巻火憐からしたら、恐らくパーティーなんて、生き残るために募集しているのではなくて、ただの仲良しごっこがしたいからパーティー募集とかしているんだろうね。


 全く。ゆとりって素晴らしいわ。


 「私は寝る。今夜は一緒に居てくれ。傷が治るまで私の手を離さないでくれ」


 「神には誓わず約束するよ」


☆☆☆


☆☆☆


 「……というわけで、みねやまちゃんねるの峯音(みねね)ちゃんと一緒にパーティーを組むことになりました! あ、ふと目の前に『モノトーン』! あんた林檎狩りに行ってたのでしょう。私にも一個ください! 小さいので良いから」


 「……魂だけじゃ物に触れなかった」


 「馬鹿じゃないの! 気付けよ!」


 「……いや、だって精霊になって一日も経ってないし。ところで配信は毎日するのかい?」


 「もちろんよ! 金になる!」


 「……配信で金になるになるとか言っちゃうんだね。……ちなみに、かれんちゃんねるはチャンネル登録者数はまだ7人だけど、みねやまちゃんねるは登録者数11万人だよ。普通にみねやまちゃんねるに乗り換えたほうがよくない?」


 「昨日の配信で一気に18万人にまで増えたけどな!」


 「というわけで、みねやまちゃんねるの中の人はこんな顔でした! みねやまちゃんねるのファンの方々、かれんちゃんねるも要チェックでだよー! ぜひチャンネル登録をよろしくお願いいたしまーす!」

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