第22話 荒巻火憐 vs. Dailly Jhones
荒巻火憐:Lv.4258
スキル:『望んだ世界』
サブスキル1:『空間』
サブスキル2:『モノトーン』
サブスキル3:『災厄』
魔法:19923
攻撃:8990
防御:6798
Dailly Jhones:Lv588
称号:『炎上の槍使い』
スキル:『Baking Hearts』
サブスキル:『年齢不詳』
魔法:1032
攻撃:332
防御:112
☆☆☆
「はい。こんにちは。異世界でFIRE。荒巻火憐です。今日はですねえ。決闘の申し込みがありまして。はい。お金も貰ったのでどうしようもなく戦うわけですが。ええ。争う必要が無い時は争う必要なくない? 私がおかしいのかな。え? 『だるそう』? いやー。まさかまさか。決闘を申し込まれて本気を出さないわけにもいかないでしょうに。では皆さん。観ててください。デイリー・ジョーンズvs.荒巻火憐。仲間に入れるかどうかの決闘試験です。でもねー。FIREって私の単語じゃないのかな。あ、そうね。デイリー・ジョーンズさんは炎上の槍使いさんなの。そう、FIRE。ステータスがちゃんと画面に映ってるかな。あれ。これ映ったら今後私たちが戦ううえで不利になるんじゃないのかな。あらら。また火憐ちゃんはやってしまいましたねー。私が不利になるのは別に構わないのですが。デイリージョーンズさんですよね。許可とって無いのにこんなに電波に乗せていいのでしょうかね。ねえ! 峯音ちゃん! やっぱステータスは隠そうよ! デイリージョーンズさんに迷惑だよー! あ。はいステータスは消えましたね。覚えてくれました? 彼は『炎上の槍使い』です。え? 『はよしろ』? ああ。もう。やりますよ」
「『はよしろ』と打ったのは僕です。早く動画の前置きを終わらせてください。戦う気無いんですか」
「やりますよい。『モノトーン』」
荒巻火憐は地中から鉄の剣を引き抜いた。
「じゃあ。始め。来ていいですよ」
「じゃあ。殺さない程度に」
「『収縮』」
デイリー・ジョーンズの槍が空中で止まった。
空中で糸に絡まれたかのように。不自然な角度で槍先が止まった。
「ごめんね。槍使いが槍を潰されたら後に残るのは何なのかな。さようなら。『収縮』」
荒巻火憐は左手を強く握りしめた。
が。槍先は止まったままだった。
「やっぱりそうなんですよ。荒巻火憐さん。貴女、神のモードか何か知りませんけれども、特別なモードにならなければ貴女はとても弱いのですよ。何でもない荒巻火憐さんが握ったところでこの槍は崩れません。この槍には絆が詰まっています。そう簡単には崩れないのです」
デイリー・ジョーンズは槍を無理矢理動かした。火憐の左手が弾け飛んだ。
前にジョーンズは前進した。荒巻火憐に向かって突進した。
「『開放』」
足で後退していたのでは間に合わなかった。火憐は自らのスキルを自分自身に使った。
身体ごと後ろへ弾け飛ぶ荒巻火憐。
サイクスの建物へと思いっきりぶつかった。
ジョーンズが『収縮』から槍を力で解き放ったときに、荒巻火憐の左手の筋肉系がいくつか壊れていた。
左手を抑えながら、飛び込んだ壁にぶち当たり、ずるると座り込む。
ゆっくりと立ち上がり、前髪の隙間から上目遣いで前を見るとそこには槍先が見えていた。
顔の右横で、家に槍が突き刺さった。
「ギブアップしないですよね。どうしましょうか。殺しちゃ駄目ならば両腕両脚を槍で焦げ捥いであげましょうか。炭になれば関節もあったもんじゃないでしょう。さて。スキルでも使いますか『Baking Hearts』」
「舐めてもらっちゃあ困るね」
荒巻火憐は左手を脱力し、右手で槍を抑えながらゆっくりと立ち上がった。
「『望んだ世界』。来なさい。私の力よ」
【進化スキル『世界はそれでも終わらない』発動──】
火憐は笑った。ゆっくりと。にっこりと。
槍を抑えていた右手から黒い稲妻が走った。
槍の先端がばりんと割れた。
「『Baking Hearts』」ジョーンズがそう言うと、壊れた槍先が炎に包まれた。
「私は貴女を恨んでいるのです。荒巻火憐。この槍をくれたのも、死線の中で助けてくれたのもある『英雄』のおかげでしてね。あえて名前は言いませんが。
そう簡単に『英雄』の魂は死なないんですよ」
見る見るうちにジョーンズの身体が炎に包まれていった。焦げているわけでもなく、ジョーンズの輪郭に沿うように炎のオーラが全身を纏った。
「良いねえ。殺り合おうか。デイリージョーンズ」
「御意」
デイリー・ジョーンズは火憐の心臓へと炎の槍を突き出した。
「『開放』」
火憐はデイリー・ジョーンズを突き飛ばした。遥か遠くへ。三十メートルくらい。
「『開放』」
火憐は自分自身をまた突き飛ばし──先ほどのスピードとは比べ物にならない程のスピードで──デイリー・ジョーンズに鉄の剣の先を突き刺した。
突き刺したはずだった。
荒巻火憐の胸に炎の槍が突き刺さっていた。
デイリー・ジョーンズの動体視力ではなく、ただの予測。
かつて『英雄』がしたのと同じように。奇しくも『英雄』に憧れた青年はそのことを知る由も無かったのだが。
荒巻火憐に反省が無かった。それが死につながるとは思ってもみなかった。
同じ感じでまた死んだ。
「残念でした。デイリージョーンズ」
右手で炎の槍を粉々にする荒巻火憐。胸に空いた穴は空いたまま。
地面へと着地した。
「残念ね。『モノトーン』の能力も上がってるみたい。ごめんね不死身で。ごめんね強くて。ごめんね勝てなくて」
胸の穴が再生されていく。
「『モノトーン』」右手の鉄剣が、槍へと変わっていく。
デイリー・ジョーンズが持っている槍と同じものが出来上がった。その槍に炎を纏い始める。
「ごめんね貴方のスキルと同じ雰囲気で。ごめんね貴方のスキルと同じ能力で。ごめんね貴方のスキルよりも強力で。
火を燃やすってどういう感じなのかなあ。焦げるのかなあ。ちゃんと朽ちて土に戻ってくれるかなあ。
さようなら。デイリー・ジョーンズ」
荒巻火憐はその場で倒れた。
「がー。すー。がー。すー」
デイリー・ジョーンズは一体何が起きたのか分からなかった。もう今の意識では現世へと飛ばされている頃だと思っていた。
荒巻火憐がその場で倒れて寝ていた。
「……はい。終了。デイリー・ジョーンズくん。いや。デイリー・ジョーンズ。荒巻火憐は負けました。投了。これから先は荒巻火憐が死ぬだけだ。それは僕らとしてもとても困る。とても嫌だ」
「これから先があったとしたら、僕は死んでいました」
「……結果的に荒巻火憐は寝ている。いつでも首を取れる状態だ。荒巻火憐の幸運スキル『望んだ世界』が出来ることはこれが限界ということだよ。
君が勝ったんだ。デイリー・ジョーンズ。君はもう僕らの仲間だ」
「僕は恨みを。余計なことを口走って」
「言って当たり前やで。『英雄』に助けられた人間なんて仰山おるんやろ。その中でも火憐に自ら『英雄』の仇を打とうなんてもんはそうそうおらん。ジョンの精神的な強さも相当なもんやな」
これは御領峯音の発言ではなくて、紫烏色の猫の発言である。
「おめでとさん。ジョンさん。オレも認めてやるで。あんたはえらい強い。偉いし強い。火憐よりもずっと強いわ。ただレベルがもうちょっとやな。恨みの力で火憐のステータスを上回った戦闘をしよったけれど、本来の恨みも何もない状態だったら火憐の握力だけでその槍も粉々になっとったで。槍も使えない槍使いになっとったところや。戦闘も終わったし、槍を磨いて元に戻しいや。
後、火憐はしばらく寝とると思うから宿場まで来てくれや。みんなで色々と語り合うや。『炎上の槍使い』」
紫烏色の猫が荒巻火憐を空間ごと持ち上げると、「ほな行くでー」と残り三人を移動するように促した。決戦の死闘の後なのに淡泊な猫だなあとジョーンズは思いながらも、その猫の言う通りに三人は歩き始めた。
火憐はまた、眠ったままで。




