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第17話 本当の愛情って本人が居ないところで発揮するよね。ところ変わって荒巻火憐は何かしらの約束をする羽目になりまして……

 荒巻(あらまき)火憐(かれん)は身体から光を発しながら寝ていた。


 地面のホログラムが崩壊と再生を繰り返し、不安定な制御を保っていた。


 地面は黒い稲妻のように、存在が否定されて存在していた。


 「火憐!」


 「……火憐!」


 「近付くな!」


 御領(ごりょう)峯音(みねね)と『モノトーン』が近付こうとすると、上空からクゥが声を掛けて二人を制止した。


 「それは分かっとるけれど。どうするねん。火憐は」


 「どうするもこうするも今、火憐に近付いたらオレ達も一発で消えてまうで。寝かせておくしかない。これも神の勝手や」


 「…………?」『モノトーン』は何のことだか分かっていなかった。


 ただ、今の火憐に近付いてはいけないことは理解の前に、何も言われなければ、もしも荒巻火憐との交流の数々が無ければ、荒巻火憐からは早く離れたいと思うのが普通とさえ思っていた。


 「怜亜(れいあ)。お前のメインスキルじゃどうにかならんか」


 「どうにか出来るかもしれないね。神になる前に戻すことは出来るのかもしれないね。


 だけど私はやりたくない。やれるやれないの問題では無くて、荒巻火憐にスキルを発動したくない。


 荒巻火憐に関わりたくない。


 怖い。この()は、怖い」


 「多分、オレの『切取(トリミング)』でも火憐は動かせないだろうな。スキルはあっても論理式そのものが壊れる。誰も何も出来んな」


 「……神って一体何」『モノトーン』が一人つぶやいた。


 「火憐が持っとる幸運(ラック)スキルや。あれを持っている人間はそのうち神になることが可能性としてあるんや。火憐が死に戻りしたのも、そのあとで『存在否定(エレム・レス)』を身に(まと)ったのも恐らくは神の力の片鱗(へんりん)や」


 「……それよりもさ」『モノトーン』は別のことを訊く。


 「……どうして火憐は旅団全員を殺したんだ。榊原(さかきばら)一人を殺せばダンジョンクリアだったのに。最初の火憐は、神になる前の火憐は榊原一人だけを殺そうとしていたのに。神になった後の火憐は、まるで、何も考えていないように。


 目の前の全てを殺戮(さつりく)した。


 それに火憐はずっと笑顔だった。神になる前から笑顔が絶えない娘ではあったけれど、その笑顔とはまた一味違う顔だった。


 まるで殺戮を心の底から楽しむように。


 そのためだけに生きているような。


 その快感だけを追い求めているような。


 そんな感じだった。あれは火憐なのか」


 「あれが荒巻火憐や」クゥは間髪入れずに答えた。


 「あれが幸運スキルを持てる素材や。逸材や。あんな者滅多におらん。というか居ったらこの世は殺戮だらけや。


 多分、火憐は何一つ考えておらんかった。ダンジョンのクリアの条件がどうだの。榊原一人を殺せばクリアだの。ぐだぐだしたことは一切考えとらん。


 勝手にやりたいことをやって、勝手にやりたいことをやっていたらいつの間にか結果が付いて来たとかそういう領域や。


 目的なんてちんけなことは何一つ無いのが本物や」


 「動画は録画しといても流さんほうが良いと思う。あれを見たら火憐は」


 「誰もが引くやろ。親交のあるオレらですら恐怖が湧いてくるレベルや。一般人が見たらあんなのはただの殺戮や」


 火憐から発されていた光が急に消えた。地面が元に戻っていく。


 「火憐!」


 「火憐!」


 「まだ消えてすぐや! あぶな」


 「ええんや!」御領峯音はクゥを叫び倒した。


 「あれを見たら分かる。火憐には誰一人付いていけん。火憐は一人や。恐らくこれから先も本当の火憐を受け入れられる存在なんてあらへん。そんな強い人間はおらん。だから微力のウチらだけでも。何の力にもなれんかったウチらだけでも火憐の手を握ってやれんかったら他に誰が火憐に寄り添えるんや!


 今はウチらしかおらんのや」


 「……火憐。しっかり」『モノトーン』が火憐の腕の辺りを静かにさする。


 「がー。すー。がー。すー」荒巻火憐は口を開けたり閉じたりしながら豪快に寝ていた。


 深い深い眠りの中に入っていた。


 「……火憐もさ、榊原を倒せたんだし『サイクス』へは行けるはずだよね」


 「しゃあないの。オレのスキルで火憐を運ぶか。『切取(トリミング)』」


 火憐の周りの空間ごと宙へと浮いた。クゥ。御領峯音。『モノトーン』。神崎怜亜は静かに歩きながらサイクスへと向かった。


 荒巻火憐が崩壊させた、がれきだらけになったサイクスへの道の中を歩いて行った。


☆☆☆

☆☆☆


 「おっとっと。ここはどこ」


 「よ。荒巻火憐」


 「『英雄』さん!? 先ほど殺したはずでは!?」


 「ああ。死んだ。まあ現世に戻るだけだ。まずは職探しだなあ。ああ。社会経験無いんだよな俺」


 「何で私がここにお邪魔しているのでしょうか。何ですか。私現世への門番か何かですか。閻魔(えんま)大王ってやつですか。何か私、裁量権とか持ってるのですかね。そんな最強キャラですか私は」


 「ああ。違う違う。何でもねえよ。ここは追憶(ついおく)の亜空間だ。死んだやつが最期に残しておきたいメッセージを誰かさんに(つづ)る部屋だよ。アイテムを持っていたら設定できるんだ。ったく運営も粋な計らいをしてやがるぜ」


 「最期の人間は私で良かったのでしょうか」


 「ああ。構わん。俺が本当に会いたかった奴とは結局一回も会えなかった。そいつは呼ぶことが出来ない。


 なあ、荒巻火憐。お前、神になったら何がしたい?」


 「成った後に考えます」


 「ぽいこと言いやがって。一度くらいは考えたことあるだろ、神様になったらあれがしたいなあこれがしたいなあとか。


 本当に無さそうだな。そんな困った顔で見るな。


 俺はあるんだぜ。神になったらしたいこと」


 「ほう。それはそれは」


 「俺、実はノンスキルで転移した来たんだよ。初めてここに来た時は」


 「それはそれは」


 「それに異世界に来たくて来たわけでもなかった。いつの間にか巻き込まれて異世界へと運ばれてきた。その上ノンスキルだ。メインスキルが一個も無えんだよ。当時は神を恨んだな。そのうち運営を恨むようになったけれど。


 だけどな。周りの仲間に助けられた。一人で居た時に無条件で仲間に入れてくれた。大郷(おおさと)とか、谷口とか。ジル。オキルド。アクーラ。笹原。出会ってきた奴は数えても数えきれねえな。


 そいつら無しでは生きていくことも出来なかった。『英雄』と呼ばれるようになった戦争も勝利を収めることは出来なかったと断言できる。だってノンスキルだぜ。


 そいつらとさ。もう二度と会えねえんだよな。現世に戻ったら記憶は消える。顔立ちすら変わるかもしれねえ。ある意味じゃ、異世界から転生されるようなもんだな。転生者とだけ覚えていて、他は一切忘れている。ここで築いた絆や年月も全てがぱあだ。神は残酷にこの世を創ったものだ。


 だからな。火憐。俺がもしも神になれたとしたら、異世界と現世を自由に行き来できるように運営に設定を変えるように求めるだろうな。行きたいときに異世界に行って、帰りたいときに現世に帰る。これの何がいけないのか俺には分かんねえな。


 神にでもなりたかったもんだ」


 「私は個人的に言えば『英雄』さんが、『英雄』さんのレベルでも会うことすら出来なかった人のことについて気にはなるのですが」


 「神については本当にどうでもいいみたいだな。俺がちっぽけな人間に見えちまうじゃねえか。


 高校の頃の同級生だよ。俺が会いたいってずっと思っていたのは。正直言って、さくらに会うためだけに異世界で色々していたようなもんだった。


 色恋とかじゃねえぜ。一緒に不本意に異世界へと飛ばされてしまった主人公だ。演劇部のな。


 蜂須賀(はちすか)さくら。こっちの世界じゃ『ルクシア』と名乗って神兵をしている。『神々の園』まで行けたら会えるらしいけれどな。二つ名まで知ってるぜ。二つ名のほうが有名だな。ルクシアの二つ名は『終わらない淑女(しゅくじょ)』昔は『終わらない少女』だったらしいけれど。流石に俺と同い年のはずだから少女には無理があるよな。流石にな」


 思い出しながら少し(すぐる)は少し微笑んだ。


 「火憐に頼むことがあるとすればただ一つだな。もしもルクシアに会えたら『榊原は先に現世に帰った』とだけ伝えておいてほしい。それ以外の伝言は何も要らない」


 「約束するよ」


 「約束するのか」


 「約束する」


 「ちなみに、火憐。お前にも二つ名が付いたらしいぜ。付けたやつは知ってはいるが、言ってはいけねえやつだろうから言わないけれど。


 火憐。お前、『救われない少女』って言われているらしいな。誰だろな付けたやつ。お前のことを心待ちにしているやつかもしれねえな。


 じゃあな。『救われない少女』荒巻火憐。俺はお前を現世じゃ待っちゃいねえからね。さようならさん。


 異世界での出会いを楽しんで」

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