第13話 私よりも年上の息子と娘が登場! え? 言っている意味が分からない? 私だって意味が分からなくてテンパってるよ!
「お、お母さん」
目の前に急に現れた、高校生くらいの少女は荒巻火憐ら四人のパーティの前でそう言い放った。
荒巻火憐に近付き、火憐を抱き締めた。
「お母さん。良かった。本当に生きている」
「母さん」
後ろからこれまた高校生くらいの男子が、四人のパーティに向かって声を掛けた。
荒巻火憐を抱き締める少女と荒巻火憐を二人同時に抱き締めた。
「会えてよかった」
「あのあのあのあの。ね。二人とも落ち着いて。ちょっと私から離れよう」
荒巻火憐は抱き締めてきた二人の肩をぽんぽんと叩いて、二人に離れるように指示を出した。
「あのですね。あのー。あれですね。貴方たちはまず、私よりも明らかに年上なのですね。ええ。で。私がお母さんと。ああ。私の息子と娘ですか。あーなるほど納得。出来るかい! 誰やねん。私はまだ十一歳だぞ。未来からやって来たとかそういうパターンですか。いや、そういうパターンのタイムトラベルものってありますけれどね。けどね。それは主人公たちが勝手に行って、歴史を改変するために行くのでしょうけれどもね。歴史を改変される側からしたら何のこっちゃ全然分からんのですよ。
ねえ。クゥ。一番こういうのに詳しそうなクゥはこの状況をどう見る」
「クゥ。まずは抱かせてくれ」
クゥは髪の短い女性に抱きかかえられていた。髪の短い女性は泣いていた。
「れ、怜亜。お前一体何を」
「四人が勢ぞろいしているところを初めて見た。伝承の通りか」高校生らしい男性が茫然と答えた。
「御領さんも。まだ若い」高校生らしい女性が答えた。
「ああ……。うっす。普通に苗字を言っちゃったね。私は隠していたんだけど」
「怜亜。説明せい。オレらには全く何のことか分からんきに」
「ああ。こちらは荒巻美琴くんと、荒巻美鈴さんだ。荒巻火憐の息子さんと娘さんだ」
「初めまして。荒巻美琴です」
「初めまして。荒巻美鈴です」
「これってさあ。私が結婚した後に子どもの名前を変えたら二人とも変わるんじゃないの」
「火憐。空気読め。今お前かなり残酷なことを言いよるぞ」
「いやあ。だってさあ。何しに来たのさ私のご子息達は」
「荒巻火憐。始まりの森のボス戦には挑まないでくれないか」
「嫌だ」
「訂正。始まりの森のボス戦には十六歳になるまでは挑まないでくれないか」
「嫌だ」
「そう言うと思っていたので、一つだけお母さん、というか将来の荒巻火憐さんの最期の言葉を送っておきたいと思います。
『世界なんて救わなくていいから、まずは自分を救いなさい』」
「私は世界なんて救えないよ。というか救わないと思うよ。世界なんてそんな大仰な話、私に分かりっこないもん」
「『自分を救おうとするその姿勢だけでも大事なんだよ』」
「って言われてもなあ」
「未来はいくつもあるんだけどさ。その中の一つでしか僕らは無いんだけどさ。母さんはピンチになるんだ。賭けの問題。このまま進んでいっても生き残れるかもしれないけれど、始まりの森にずっと留まっていたら生きている確率は百パーセントなんだ。それに十六歳まで待てば普通の異性界ライフが待っているんだ。彼氏も出来て結婚もして。子どもも出来て。僕たちが産まれる。そういう世界線から僕たちは来た。
そういう世界線もあるんだよ母さん」
「そっちのほうが平和で良い世界線なんだ。なあ。クゥ。お前にも会えてよかったよ」
「怜亜。オレは行さんの占いもちゃんと知った上で荒巻火憐たちと協力しとるんやで。これ、人の覚悟を踏みにじるような行為ちゃうんかいな」
「それでもね。あまりに理不尽だし。あり得ないよあんなこと。何かして後悔するよりも、何もしないで後悔していたほうが良いときも必ずあるんだよ。未来から来た私たちなら分かるから」
「未来から来たって言うんならさ。始まりのボス戦の弱点とか教えてくれないかあ。なんの情報も無いんだ」
「だからその戦闘を止めに来たんだけど。お母さん」
「止まりゃしないよ。私だもん」
「始まりの森のボス戦の相手は榊原卓だ」
「は? 人? 対人戦か。ボス戦に? ちょい待てどういうことや。始まりの森のボス戦なんかただの上級の魔物が出てくるだけやろ」
「詳しいことは分からないけれど、火憐たちの前には榊原が立ちふさがる。そこで火憐は死ぬか生きるかのどちらかに流されていく」
「榊原さんなら勝てそうじゃない? 『英雄』さんってそんな強いの」
「強いで。オレも榊原には勝てんかったしな」
クゥが思い出すように言った。
「クゥですら勝てんかったんか。榊原は何のスキルを持ってるんやろか」
「ちなみに言うとくけどな。オレは始まりの森のボス戦には参戦せんからな」
「うん?」
「え」
「……」
「だってオレはもう通過者やし。ダンジョン攻略者だから逆にボス戦で戦う権利も無いんや。だから鑑定とかも使えへん」
「怜亜さん、苗字を教えてくれませんか」
「神崎怜亜だけど」
「神崎さん。あの。クゥさんと仲が良いような雰囲気を持っていますが『アイーダ』の方ですかね。もしそうなればチート、もとい『キズナ玉』をいくつか私と峯音に与えてくださるとかそういう展開にはなりませんかね。ほら、私を生き残らせるために未来からやって来たのでしょう。いやー、サブスキルが『空間』しかありませんのでして。ここはお一つ、荒巻火憐の提案に乗って頂いてはくれませんかね」
「流石は幸運系だ。生き残りたい気持ちが満々だな。ならばそもそもの戦闘を回避すればいいだけの話」
「嫌です」
「幸運系だ! あはは」
「お母さんはこの頃から『嫌です』って発言を何回もするんだね。結婚してそうなったかと思えば、やっぱり子どもの頃からそうだったんだね」
「拒否権の権化だもんあ。母さんは」
「そろそろ時間だ。時間が無い」
「お母さん。会えて嬉しかった」
「僕も会えて嬉しかった。母さん」
二人の高校生くらいの青年と少女、荒巻美琴と荒巻美鈴にもう一度しっかりと抱き締められて、荒巻火憐は何も言えなくなった。
抱きかかえた姿勢のまま、荒巻美琴と荒巻美鈴は光の屑になって消えていった。
「先に進むんか。火憐」
「もちろん。二人の子どもたちには悪いけれども。死んだらごめんねって伝えといて『モノトーン』。あんたは何となく生き残りそうな気がするわ」
「……火憐がいなければ僕も消えると思うのだけれどな」
「何かがああなって、どうなるのか。結果は誰にも分からないよ。『モノトーン』だって、私が居なくなった後でもちゃんと存在出来るようになりそうな気もするから。
だって今日だって、未来から誰かさんがやって来るなんて、私たちの誰も予想できたことでは無かったでしょうに。
未来は誰にも分からない。例え、未来に生きている人間だって分からない。
未来は誰からも決定されたりはしないのだから」




