そして婚約者交代となった……③
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「シャルル、間に合って良かった……」
天候の所為で予定より早く東方へ旅立つ事になったお姉さまだったお兄さまを見送る為に、ベルナール伯爵家のエリオット様が我が家に来られた。
ギリギリまでお仕事だったのだろうか、王宮騎士の証である濃紺の騎士服を隙なく着こなされた精悍なお姿のまま。
グレイベージュの髪に深緑の瞳。
長身で痩身に見えながらも鍛えられた逞しいお身体。
あぁ……久しぶりの生エリオット様だわ……!
はっ、いけない。
いくら初恋の相手だからって毎回毎回お会いする度にこんな、エリオット様に穴が空きそうなほど見つめてしまっては淑女としてはしたないわ。
それに今は長年婚約者同士として絆を深めて来られたお二人の別れの場なのよ……!
黙って大人しくしていなくては。
どうもエリオット様を前にすると鼻息が荒くなるわたしは、自分にそう言い聞かせてお兄さまとエリオット様の様子を見守った。
「エリオット。すまないな、わざわざ見送りにまで来てくれて」
「いや、哨戒班の引き継ぎがトラブってね。俺の方こそ来るのが遅くなって悪い。天候の所為で出立を早めるんだろう?」
「そうなんだ。もう行かなくては……」
「シャルル……キミの幸せを心から祈ってる」
「エリオット……」
あぁ……幼い頃から互いを唯一無二としてきたお二人にこんな別れが訪れるなんて……。
胸が痛くて堪らない。
わたしでさえこんなに辛いのですもの。
エリオット様の心境はきっと、こんなものではないのでしょうね……。
仕方ないとはいえ、いつか妻になると信じて疑わなかった人を失うのだもの……。
うっ……泣いては駄目よシャロン。
泣きたいのはきっとエリオット様の方よ。
「……うっ……ふっ……うっく、うぅ……」
「シャロン……」
やっぱりどうしても我慢出来ずに泣いてしまったわたしをお兄さまはもう一度抱きしめてくれた。
そしてそのまま、わたしをエリオット様に引き渡す。
エリオット様はお兄さまからわたしを受け取るように手を取って引き寄せた。
まるで……婚約者の引き継ぎ。
そんな風に思ってしまった。
今までエリオット様の隣は、お姉さま…だったお兄さまの場所だったのに。
その場所に立つ自分に違和感を感じずにはいられない。
……でも、
もうそんな事は言っていられない。
おn、お兄さまが居なくなるのだ。
わたしが、彼と誓約を果たさねば。
わたしは俯きそうになる顔を上げてお兄さまを見た。
お兄さまはわたしとエリオット様を見て、どこか満足そうに頷いた。
そして力強い眼差しをエリオット様に向ける。
「エリオット、シャロンを頼む」
「ああ。大切にするよ。必ず幸せにする」
エリオット様……義務的なものであったとしても嬉しいです。
ジョセフィーヌ様風に言うならキュンキュンものです。
わたしとエリオット様、そしてお兄さまを見てお父さまが言った。
「既に交わされている誓約魔法だ。新たな手続きは何もない。
誓約の内容はマーティン男爵家の孫娘をベルナール伯爵家に嫁がせる事。
既に周知もされている事だが、今この場を以って正式に二人は婚約者となったね」
わたしとエリオット様は互いに顔を合わせ、少し笑って頷いた。
それを見届けるかのように、
お兄さまはこの国を後にし、東方へと旅立っていった。
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次回からようやく本編が始まる感じです。




