そして婚約者交代となった…①
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「シャローン、一緒にランチしましょ~♪」
王宮で知り合った友人、第二王女ジョセフィーヌ殿下の侍女のナンシーがわたしに声をかけてきた。
「いいわよ。でもわたし、お弁当を作ってきてるの」
「わかってるって!だからホラ、わたしもパンを買ってきたわ」
「ふふ。さすがはナンシーね」
我がマーティン男爵家は貴族とは名ばかりの貧乏な家だ。
ギャンブル好きだった祖父が身代を食い潰した所為で、我が家は財産を失い借金だらけになった。
没落寸前まで家を追い込んだ祖父はとっととあの世に逝ってしまい、家族には多額の負債だけが残ったという訳だ。
東方画家としてそれなりに名を上げた父が絵を売る事により借金はかなり減ったが、それでも我が家の家計は火の車。
使用人を減らし、出来る事は自分達でする。
そうやってやりくりしてなんとか男爵位を手放さずに済んでいる。
名ばかりの爵位なんて売ってしまって清々したいところだけど、そうもいかない。
何が何でも、せめてわたしがエリオット様と結婚するまでは爵位だけは手放せない。
爵位を失い、平民となれば伯爵家であるエリオット様との婚姻が結べなくなるから。
それもこれも全て、祖父たちが交わした誓約魔法の所為だ。
誓約魔法は反故や破棄を一切認めない絶対的なもの。
誓約を破れば魔法により罰が下される。
守秘義務の誓約を破れば舌が灼かれ、腕が腐り落ち、
行動の誓約を破れば足が腐り落ちるか、神経を切られ二度と歩けない足になる。
そして貞淑貞操の誓約を破ると生殖機能を失うという……、
婚姻に纏わる誓約はこの貞淑貞操に抵触する。
そしてなんと理不尽な事に、この場合誓約魔法に縛られるのは婚姻を結ぶ者同士。
誓約魔法を交わした祖父たちが亡くなっても、誓約を果たす婚姻が結ばれるまでは決して消える事はない。
なので、何がなんでもマーティン男爵家の娘は、エリオット様に嫁がねばならないのだ。
例え姉の代わりに婚約者がわたしに代わってしまったとしても………。
「キャッ!ねぇ!すごく素敵な人がこちらに向かってくるわ!」
ナンシーの声でわたしは現実に引き戻された。
つい理不尽な誓約魔法に思いを馳せてしまっていたわ。
ん?すごく素敵な人?エリオット様の事かしら……って、アレは……
ナンシーが言うその素敵な人とやらに視線をやり、
わたしはその人を見て驚いた。
「お、おn…お兄さまっ?」
「え?」
わたしがその人物をそう呼ぶと、ナンシーは一瞬驚いた顔をわたしに向けた。
「やぁシャロン。偶然だね、これからお昼かい?」
「ええ。……お兄さまはどうして王宮に?」
「来週からまた東方の国に行くからね、渡航の手続きと王太子殿下にご挨拶を」
「なるほど。そうなのね。あ、お兄さま、今夜のお兄さまの壮行会にエリオット様も来て下さるそうよ?だから絶対に早く帰ってきてね」
「エリオットも?なんだか悪いな。壮行会も、少ない食費を切り盛りしてる状態で……でもわかった。今日は早く戻るよ」
「お願いね」「ああ。それじゃ」
そう言ってお兄さまは立ち去った。
その瞬間、ナンシーがわたしに食らい付いてくる。
「ちょっ、ちょっとシャロン!今の超絶イケメンの事をお兄さまと呼んでいたわねっ?あなた、さっきの彼とどういう関係なのっ?」
「どういうって……家族よ?」
「え?でもだってシャロン…あなたって、お姉さまが一人いるだけでしょ?」
「まぁ色々あるのよ。さ、行きましょ。早くしないとランチタイムが終わってしまうわ」
「あ、そうね。って、でもシャロンどういう事なのよ」
「あ~お腹空いたぁ」
「待ってシャロン、待ってよ~」
わたしが今、お兄さまと呼んだ人の事の事情はまだ公にはしていない。
因習的な人間が多いこの国ではそれを明かしてよいものかと、まだ結論が出ていないからだ。
だけどきっと、分かる人には分かるのかもしれない。
今わたしが兄と呼んだその人が、戸籍上はわたしの姉のシャルル=マーティンであるという事を。
留学に行く前は確かに女性だったシャルルお姉さまが、
帰国した時には男性になっていたのは、
私達家族にとっては衝撃的な出来事であった。
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時間がなくて短めでごめんなさーい!




