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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第1章
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第4話 寄宿

 街までは体感でほんの数キロ程度だった。森を抜けて街道を進むだけだったので、魔獣にも遭遇せず、あっさりと到着した。

 

 街に着いてまず私達は、リンカーの集会所へ向かうことにした。

 元々リーシャは依頼を受けていたので、その報告も兼ねている。

 

「ここがリンカーの集会所ねえ、なんだか普通の酒場みたい」


 集会所内は、カウンターとテーブル、そして掲示板があり、喧騒に包まれていた。

 街全体が中世ヨーロッパとファンタジー世界を織り交ぜたような景観をしており、まず目を見張ったのが魔具屋や魔書店といった「魔」と付く店が存在していることだ。

 

 やはりこの世界では魔法はごくありふれた技術なのだろう。機会があれば調査してみることにしよう。


「あたしは依頼の報告をしてくるから、あんたはここで待っていてくれ」


 そう言うとリーシャはカウンターの方へ行ってしまい、私は一人取り残される形となった。


「おいねーちゃん、邪魔だよ」


 後ろから野太い声が轟いた。振り返ると身長2メートルはありそうな巨漢が立っていた。


「すみません、連れにここで待つように言われていまして」


「ん? ねーちゃん見ない顔だな。新入りか?」


”見ない顔”ということは、この人は集会所を利用する者をある程度知っているぐらいの経歴なんだろうか。


「新入りというか、彼女に」


 と、リーシャの方を指差した。


「おいリーシャ、帰っていたのか」


 どうやらリーシャと顔見知りらしい。

 それにしても声が大きい。耳から入った音が脳の中を駆け回るようだ。


「お前一人だけか?タップやリカルドはどうした」


 まずい、ややこしくなる。この件に関しては打合せがまだできていない。そんな状態であのお馬鹿さんが応えると話がこじれにこじれる。

 

 危機を察し、私は疾風のごとくリーシャの所へ走った。


「殺されたよ、そこの――」

「えっと!私が森で魔獣に襲われているところを助けて頂いたんです。でもその時に他の方々が……」


 このガキ、私に殺されたって言いかけたな。あとでお灸を据えてやる。


「リカルドはともかくタップがやられるって、どんなのが相手だったんだ。あの森にそんなやばい魔獣はいなかったはずだが」

「んぐーーーー!」


(適当に強いやつにやられたと言いなさい)


「ジャ、ジャイアントオーク一体だけだったんだけど、不意を突かれて。なんとか撃退したけど、あたし以外は深手を負ってしまったんだ」


 リンカーってそんなに簡単にやられちゃうものなのかしら。ちょっと無理があるのでは。


「そうか、アレに不意を疲れたってんじゃあ仕方ねえ。あいつらは残念だが、お前だけでもよく戻ってきたよ。あんたもこいつにお礼言っておきなよ」


「は、はい。本当に助かりました」


 どうやら意外と上手く誤魔化せたようだ。

 もしかしてリンカーってそれほど強くないのかしら。魔法なんてものを使えるから、てっきりそこら辺の魔獣を相手にする事なんて余裕だと思っていた。


「リーシャ……さん、用事はもういいのですか?」

「一通り終わったけど」

「では一度、宿へ向かいましょう。ね」


 この場にこれ以上いるのはまずいので、急かすように腕を組んでリーシャを連れだした。

 

「あなた、私に殺されたって言いかけたわね。もし次に同じようなことがあれば、完全に支配下において一言一句全て私が管理するわよ」


「ふんっ……」


 そう簡単に懐いてはくれないか。


「で、依頼の件はどうだったの? 下手なこと言ってないでしょうね」

「あれは結果報告だけで、過程は報告してないよ」


 一応遠目に見ていても事務的な手続きだったようだから、恐らく先程ののような失言はしていないだろうけど。


「ついたぞ。ここがあたしの宿だ」


 リーシャの馬鹿さ加減にげんなりしながら歩いているうちに宿に着いた。


 外観も普通、内装も普通、全てが普通な宿で逆に安心した。これで「安けりゃいいんだよ、ワハワハ」とか言いながら馬小屋を紹介されていれば、その場で尻を蹴っ飛ばしているところだ。

 

 そのまま部屋へ案内してもらい、私はベッドに腰掛け、リーシャは備え付けの椅子に座った。


「さて、さっきの続きだけど、私とあなたは運命共同体って言ったわよね。覚えてないのかいしら」

「……。」


「わかったわ。ではこうしましょう。現段階で、私はあなた達に助けられた。その際にあなた以外は深手を負って死亡した。私は行くあてがないのであなたと共に行動している。そういうことにしましょう」


 シンプルな設定の方がこの子の頭でもなんとかなる筈だ。


「……わかった。それで今後はどうすんだ? 一応食いぶちとしてはリンカーの仕事があるけど」

「そうね。まずは資金と情報収集ということで、それがいいかもしれないわね」


 どんな世界であれ、通貨はあって困ることはない。


「そのリンカーの仕事というのは、どんな事をするの?」


「あたしたちがしていたような開拓系が多いかな。あとは危険度の高い魔獣の駆除や調査がある。けど、魔獣の駆除とかは大人数で討伐隊を組んで行くのが普通だから、基本的には開拓系をすることになるよ」


 開拓系。聞くからに地味で面倒くさそうな仕事だ。私には向いてないと思う。できれば後者の方が楽そうだ。


「何をするにも、まずはリンカー登録をしないと何もできないぞ。それにランクもあるからいきなり高ランクの依頼はすぐに受けられない」


 やっぱりランク制度があったか。当たり前といえば当たり前だ。実績も信用もない新参者を高ランクに向かわせるなんて、普通じゃ考えられない。


「さっき集会所に行ったときに済ませておくべきだったわね。登録はまた明日にして、今日はもう休みましょうか」


 日も暮れかけ、街を闇が包み込もうとしていた。

 

「私はベッドで寝るからあなたは床ね」

「なんでだよ!? ここはあたしの部屋だぞ」


 この子は主従関係を理解できないのかしら。普通はご主人様にベッドを譲るものでしょうに。


「じゃあ一緒に寝る?」

「はぁ!? 誰がお前なんかと」


 もう少し距離を縮めてほしいけれど、時間が解決するのだろうか。


「床で寝るかベットで私と寝るか決めなさい」


「……ちっ、床で寝りゃあいいんだろ」


 部屋の隅で毛布にくるまり、こちらをジロリと睨みつけるリーシャを横目に私は目を閉じた。

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