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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第1章
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第3話 状況整理

「あら、全然掘れてないじゃない」


 外に出てみると、まだ1人分入るかどうかの穴しか掘られていなかった。

 あれから5分は経っているはずなのに、遅い。


「あんたが……、早すぎる……、なんで片手で3人も……、担げんだよ」


 肩で息をしながら石でガツガツと地面を掘っているリーシャに、私はほとほと呆れ果てた表情を向けた。


「石で3人分も掘ろうとしているあなたがアホなのよ。どきなさいな」


 どさりと遺体を落とし、中途半端に掘られた穴からリーシャを摘み出した。

 

「まだ血が馴染んでないのかしら。本来ならこれくらいサクッとできるはずなのだけどね、っと」


 そう言いながら地面を蹴ると、3人分どころか5,6人並べてもおつりがくるぐらい幅がある穴が掘れた。


「リーシャ、埋めるのはあなたがやりなさい。今のあなたなら数分でできるでしょう」


 その間私は現状を整理する為に倒木に腰を下ろした。


 私は何者か、それはわかる。能力も把握している。しかし、自分の名前や、あの遺跡にいた理由、それ以前の記憶はわからない。記憶は無いが知識はある。記憶と知識は別物だという知識がそれを証明している。


 一方で、この世界の知識は皆無だ。

 今が西暦何年で、ここがどこの大陸でどこの国にあるのかもわからない。


「リーシャ、埋めるついでにこの世界のことを話してくれないかしら。全部よ」


 遺体を埋める間、リーシャは語った。この世界のことについて。


 リンカーや魔獣の存在。遺跡から得られる技術。今は聖典歴812年。ここはブラト王国領。それ以外にもアレン帝国、アリア公国、ステイン共和国という国々が存在しており、それらが上手く均衡を保っていること。そして魔法……。


 リーシャの話から状況を整理する。

 既知の情報と新規の情報を繋げるが、現状わからないことが多すぎる。

 

 まず、私の知識では、聖典歴などという暦は存在しない。一般的に使われていたのは西暦と呼ばれるものだ。どうやら聖典歴とは、多くの国が信仰している、聖光教会。そこにある聖典と呼ばれる聖書に書かれている生命の日からの暦らしい。

 

 そしてもう一つ、それは魔法だ。魔法は知識にはある。しかしそれはファンタジーでの話で、真面目な顔で使う単語ではない。


 原理はわからないが、この世界の多くの人々が使えるようだ。

 他にも疑問点はあるが、この2つが理屈では通らない。

 残る可能性は……。


「地球じゃない」


 別の惑星、または別世界。

 

 別の惑星ならまだ可能性はある、しかし別世界はファンタジーすぎる。どういう原理で、どういう原因で別世界に……。

 

 いや、そもそもこの知識は正しいのか。経験が消えた以上、この既知の情報は経験から得た情報とは断定できないのでは。そう、後から上書きされたとか。


「ま、いっか」


 結論を急ぐ必要はない。当面は情報収集に努めよう。その為にあの子を配下にしたのだから。


「そろそろできたかしらー?」


腰を上げて埋葬の様子を伺うとリーシャがいなくなっていた。

次の瞬間、胸から腕が突き出た。


「仲間の分だ」


 胸を突き抜けている華奢な腕は、リーシャのものだった。どうやら上手く力を使えているようで安心した。


「そう。じゃあこれでお互い恨みっこなしね」


 今後の事を考えれば出来る限りわだかまりは排除しておきたい。これでチャラになるなら安いもの。

 しかし、流石に格好がつかないので腕だけは引いてもらう。

 私は腕をつかみ、ぞぶりと押し戻した。


「でもせっかく衣服を手に入れたのに、いきなり穴が空いちゃったわね」

「確実に心臓を貫いたはずなのに……」


 リーシャの脚はガタガタと震えていた。その反面、表情は石のように固まり、血の気が引いていく様が見て取れた。


「リーシャ、あなた本気で言っているの? だとしたら相当お馬鹿さんよ?」


 ミイラから復活を遂げた化物が心臓を貫いた程度で死ぬと思った点、そもそも自分の脅威になる者を直ぐ側に置くお人好しだと思った点。他にもあるが、普通に考えればそんな簡単に深手を負わせられるわけがない。


「私はあなたと敵対したい訳じゃないの。あなたの仲間が死んだのは、私が”殺した”からではなく、たまたまそこに居合わせたから”食べた”だけ。あと危害を加えてきたから反射的に攻撃もしちゃったけど。それはお互い様よね」


「理解はできるけど納得はできない……」


 それはまあ、仕方ない。時間ならたっぷりある。少しずつお互いを理解していければいい。


 想定外と言えば、リーシャが思ったよりもお馬鹿さんだったってこと。戦闘に全振りでもしているのかと思うほどの馬鹿さ加減だ。

 

「いいわ。とりあえず、私達はもう運命共同体なの。あくまで一方通行のだけど。私が死ねばあなたも死ぬけど、あなたが死んでも私は死なない。でも安心して、そうそう死なないから。”そういうふう”になったのよ、あなた」


 死なないという事は封印されれば地獄を味わうことになるのだが、今は伏せておこう。

 

 例えば地中深く埋められるとか、拘束されて常に生命力を抜き取られるとか。考えただけでも恐ろしい。

 

 なかなかそこまで持っていかれることはないだろうが、私自身もそこは警戒している。一応奥の手もあることにはあるのでそれほど心配はしていないけれど。


「埋葬も終わったようだし、街に行きましょうか」


 少しうつむき加減のリーシャと街へ向かうことになった。

 その街を一時的な拠点として今後の方針を決める。

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