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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第1章
12/22

第12話 王城召喚

 リーシャの病室を再び訪れた私は、地下水路での出来事、ギリアルとの対話を話した。


「つまり、これで依頼は完了したわけだ。あたしは寝ていただけだから、なんだか悪いな」

「いいのよ別に。結果としてプラスになっているんだから」

「う……まぁ……そうかなあ」

「それにもう少ししたらもっと活躍してもらう事になるかもしれないし」

「それってどういう……!?」

「どうしたの?」

「いや、今依頼の件で連絡が来たんだけどさ、なんでも王城まで来いって」

「まぁそうなるわね。予想通りっちゃあ予想通りよ」


 なにせ王都の危機を救うだけでなく、敵国の戦略兵器を取り除いたのだから王城へ召喚くらいはされるべきだろう。

 重要なのはそれからだ、そこでどう利益を勝ち取るか。ここでしくじれば、しばらくは現在の生活が続くことになる。

 

「いつまでに来いって書いてある?」

「明日の昼までに来いって」

「じゃあ今から行きましょう」

「アタシ……コンナ……シニソ」


 リーシャは驚愕の表情のまま片言でぶつぶつ言い出した。


「大丈夫、大丈夫。なんなら王の前で血をぶちまけてもいいわよ」

「ソンナ」


 子犬のようにプルプル震えたリーシャは、幼児用玩具を傷つけるような嗜虐心をそそられる。むしろこの為に無茶なことをしていると言っても過言ではないだろう。


「それじゃあ行くわよ。さっさと準備しなさい」


―――


 王城までは城下を横断している大通りが存在しているので、どこからでも数十分でたどり着くことができる。もちろん王城には、王都の城壁とは別の専用壁が構築されているので、一般人はそこまでが限界だ。しかし、今回は事前に話をつけていたらしく、すんなりと中へ通してくれた。

 場内へ入ると、まず持ち物を調査された。特に危険なものは持ち合わせていなかったので、これも難なく通ることができた。透視魔法による調査なので、持ち物を一切外さずに済むのは便利だ。

 その後待合室へ誘導され、そこで待機するよう告げられた。


「意外とあっさり入れたわね。こういう所がガバガバなのよね、この国って」

「リンカー証で個人情報は筒抜けだからじゃないか?」

「確かにそうかもね。ところで体調の方はどう? もう元気そうだけど」

「そういえばそうだな。なんだから体も軽いし」

「よかったじゃない。あなたの病気、普通の人なら死んでいるわよ」

「そうなのか……ていうかあたしの病気がなんだったのか知っていたのか?」

「ええ、恐らく病名はペスト。黒死病とも言うわ。最後は肌が黒くなって死に至る病。だけどそうなっていないということは、そこまでに抗体ができたってことね」

「おっかねえ」


 病状からして恐らくペストだが、この世界で本当に以前の知識が通用しうるのかはまだわからない。今のところリーシャだけで私が感染していないところを見ると、私には多くの抗体があるということだ。リーシャを人体実験みたく使ったことには少し引け目を感じるが、それはそれだ。

 そもそも、この世界特有の病があってもおかしくないのだ。未知のウイルスが存在するかもしれない。もしかしたら呪いの類があるかもしれない。こういった状況では、トライアンドエラーで克服していくしかない。


「お待たせしました」


 と、他愛のないようで結構重要な話をしていると、待合室に一人の男が入ってきた。


「自分は参謀本部参謀補佐のテルミット・エリゲナであります、リーシャ・アレスト殿とお連れの方ですね。期日より遥かに早くお越しいただきありがとうございます」


 連れの方? いまこいつ連れの方って言った?


「さて、王との謁見ですが、いくつか気をつけていただきたい事があります。まず一つ、許可が降りるまで決して頭を上げないこと。二つ、敵対的行動を取った場合全力を持って阻止し、これを討伐する。基本的にはこの二点になります」

「つまり勝手なことをするなということかしら」

「そう捉えてもらっても構いません。なお、お連れの方はリーシャ殿から一歩下がった位置にいてください」

「そのお連れの方ってどういうことかしら」

「リーシャ殿が今回の事件の功労者だと聞いておりますので」

「功労者は私よ! この私ミナ・アレストよ! 報告したアホは誰かしら!?」

「ウェンスキー尋問官です」


 あの子供おっさん。今度あったら蹴り飛ばしてやる。


「彼の連絡ミスよ。訂正なさい。私ミナが功労者、あそこのリーシャは血反吐吐いて寝ていただけ」

「しょ、承知しましたミナ殿……」


 あまりの剣幕に押し切られた様子のテルミットは、顎の下の冷や汗を拭いながら私達を謁見の間へ誘導した。


「いいですか、くれぐれも先程の約束をお忘れなく」

「わかっているわよ、しつこいわね」

「……では」


 身丈180センチ以上はありそうなテルミットの倍ほどの大きさをした扉が開いた。

 奥には玉座があり、まだ誰も座っていない。その両脇には武装した騎士のような二人が控えている。少ないように感じるが、それ以外はどこかに隠れているのだろう。普通はそうだ。そうでなければ王の首は簡単にはねることができる。

 広間の中ほどまで通され、その場で跪くよう促された。手はず通り言われるがまま従い、許可が降りるまで頭を上げないようにする。

 辺りは静けさに包まれ、鎧の軋む音すら聞こえない。

 そんな中、リーシャが小声で何か話しかけてきた。


「ミナ、ミナ」

「何よ、黙ってなさい」

「トイレ行きたい」

「ぶふぉ」


 場の空気を全く考えない言動に思わず吹き出してしまった。

 それでもすぐに室内は静寂を取り戻した。


(いつまで待たせるつもりだろう、腰が痛くなってきた……)


 無理な体制で待たされているせいで、だんだんとストレスも溜まってきた。人を呼んでおきながら待たせるとは、無礼にも程がある。


 と、イライラしていたら玉座の袖から誰かが出て来る気配がした。両脇に控えていた騎士がガシャリと鎧を鳴らす。


「頭を上げよ」


 えらく幼い声がしたが、王は子供なのかーー

 子供だった。

 玉座に座っていたのは10歳そこらの男の子だ。小さななりに大きな王冠を被り……いや、どちらかと言えば被られている感じだ。事情はよくわからないが、この国は色々と抱えているらしい。

 隣に立っている侍従は世話係というわけではなさそうだ。腰に剣を提げて目つきは鋭く、プライドも高そうで、いかにもモテないタイプだ。


「貴殿が此度の件を解決し、その上帝国の魔具までも持ち帰ったというミナ・アレストか」

「はい、私がミナ・アレストです」

「よくやってくれた、最近の帝国には煮え湯を飲まされ続けていたのでな」

「そのようで」

「うむ……では褒美の件だが、何を所望だ? 出来る限りの事はしよう」

「では、私をこの国の顧問にしてください」

「顧問……とな? それはどういう意味だ」

「ようは相談係です。この国の悩みを聞き、解決する約目です」


 王と共に出てきた侍従の顔が歪んでいるのが見える。これはあまりよく思われていないな。


「横から口を挟んで申し訳ありません王よ。この者の言い分、少々無礼かと」

「そうなのか?」

「はい。まるで王と立場が同じかのような言動です」

「ふむ……そうか」

「ミナ・アレスト。貴殿の王に対する侮辱とも取れる言動は、貴殿の功績から今回は目を瞑ろう。今後は気をつけるように」


 いきなり侍従がでしゃばってきてムカついているのはこちらなのだが、まあいい。ここで感情論は自らの首を締めるだけだ。


「私はこの国の抱える問題と、それに対する解決策を持っています」

「ほう、我が国の抱える問題とは何だ」

「色々ありますが、王が幼い上に周りが役立たずだということでしょうね」

「貴様、警告はしたぞ」


 鋭く冷たい視線を送る侍従は、今にも私達の首をはねんと腰の剣に手を置いた。

 私は大きくため息を吐き、言動を改めた。悪い方に。


「そういう考えが古いのよ。古い考えは新たな考えに駆逐されるわ。もちろん温故知新の精神も大事だけど、この国は戦争中じゃないの? いつまでサビの付いた騎士道精神引っ張るつもり?」

「言いたいことはそれだけか」

「もっとあるに決まってるじゃないバカねえ。だから顧問にしろって言ってんの」

「目的はなんだ」


 今にも剣を抜きそうだった侍従が突然冷静になった。意外とまともな人間だったようだ。


「そうねえ、私の目的はあることについて調べること。それはとても希少な情報だからどこか大きな組織にでも属さないと何年かかるかわかったものじゃないわ。そこで今回の件を解決した褒美をくれるって事だから、国家顧問を提案したわけ」

「目的はわかったが信用はできんな」

「いや、信用できない人間をここに呼んじゃ駄目じゃない」

「何かあれば俺が切り捨てる」

「強いのね」

「試してみるか?」


 きっと周りにはお互い火花を散らしているように見えたのだろう。横から動揺したリーシャが止めに入った。


「待て待て待て! こんな所でやり合おうとしないでくれよ恐いなあ。そもそもなんだよ顧問って。聞いてないよ。てっきりいっぱいお金貰って美味しいものでも食べるのかと思ってたのに、あたしの意見も聞いてくれよな」

「黙ってなさいリーシャ」

「黙れって言ってもなーー」


(黙りなさい)


「……」

「ではこうしましょう。陛下、私達が直接前線へ赴きますわ。そして見事状況を打破しましょう。その功績によって、もう一度顧問を考えて下さいな」

「……いいだろう」

「な!? よいのですか!? このような素性の知れぬ小娘共に任せても」

「なら誰があの要塞の兵を救えるのだ。いくらアイリとてそう長くは保たなだいだろう」

「しかし……」

「これ以上我が国の兵を死なせたくはない。それに天帝五聖人の一人を倒す程だ。きっとなんとかしてくれる」


 王様が意外と物分りが良くて驚いた。見た目が子供だからてっきり侍従の男が全てを決めている傀儡かと思ったらそうでもないらしい。

 こんな子供に一国の王という大役を担わせるのは、流石に残酷ではないだろうかと思う。


「では決まりね。早速作戦を決定する機関へ案内してくださる? 暇をもてあますほどこの国も余裕は無いでしょう」

「言ってくれるな。これで結果がだせなければ、その首は無いと思え」


 この男、絶対ナルシストだ。自分の一言一句に「かっこいいだろう?」というニュアンスを含んで発言している。この世界の住人は気持ち悪い性格の奴らばかりなのかとほとほと呆れる。

 それはさておき、ここまではあらかた予定通りだ。今後の方針としては、前線の戦況をひっくり返し、この国に貢献する。そして正式に国家顧問として就任することだ。

 うまくいくか少し心配だが、ここまできたらやり通す他ない。

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