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第7話 どこの世界にも強者と弱者がいるものです

ザリオスくんとの模擬戦のあと、エベリナさんは少し具合が悪いと言っていたので自室に帰って休んでもらった。


顔も赤かったし、呼吸も荒かったし……風邪でも引いたのだろうか?


まぁ、そんなわけで夕食のときにはブラッディマリー家の侍女軍団となぜか変わりに来たというストラスが俺の隣に控えていた。


「陛下……今日のザリオスとの戦い、感服いたしました」


「あぁ……見てたんですね。ザリオスさんは大丈夫でしたか?」


「陛下の御力が見られるとあれば、すべての業務を中断してでも拝見いたしますとも。ザリオスは、問題ありません。軽い内臓破裂と全身打撲くらいですのですぐによくなるでしょう」


いや……それ、重傷だよね!?


「そ、そっか……悪いことしちゃったな」


「何をおっしゃいます!ザリオスも陛下の御力の片鱗が見られたとたいへん喜んでおりましたよ?」


……え?ザリオスくんは真性のドMなのかな?


「そ、そっか……ところで、ザリオスはこの国の中では強いほうなんですか?」


「え?……そうですね……「強い」をどう定義するかによりますが、純粋な個としての格闘能力やパワーという意味では我が国の中ではトップクラスかと存じます」


「他の定義だと?」


「例えば魔法や呪いの力も加えて相手を『殺す』ことと定義するなら私のほうが一枚上手かもしれません」


「な、なるほど……」


……悪魔ってのはやっぱ怖いっ……


「エベリナはもちろん戦闘にも秀でておりますが、彼女のさらなる強みはその真祖たる吸血鬼族の家系……吸血鬼は噛んだ者を自らの配下として操ることも出来るのです」


マジか!それは気を付けたほうがいいかもしれない……


「へ、へぇ……」


「中でも……彼女の配下の『十二死徒』などは個の戦力こそザリオスに劣るものの俊敏性や隠密性が高いため暗殺などに非常に向いておりますし、戦闘となっても連携による波状攻撃などで手数が多いためかなり厄介な相手と言えるでしょう。これは個の強さというよりは群の強さということになりましょうか」


「そ、そうなんですね……あはは……あはははは」


あ、暗殺!?波状攻撃!?


あの優しそうなエベリナさんに限ってそんなことは無いと信じているけど…………無いよね?


その後はなんとなく会話に困って黙々と食事をとった。


そして、食後のコーヒーを飲み始めたとき……



「そういえば、陛下。明日全ての家臣を招集いたしますので、正式な紅魔王への即位の儀として戴冠式を執り行いたく存じますが、よろしいでしょうか?」


「戴冠式……ですか?それはどんなことをすればいいんですか?」


「そうですね……基本的には進行の流れに従っていただければ結構なのですが、歴代の紅魔王は赤の国をどのような国にしたいかを宣言なさる事が多かったと伝えられております」


国の方針……俺、選挙にも行ったこと無いんだけど……


「ち、ちなみに先代はどの様な宣言を……?」


「確か……『この国の全ては俺のもの……すべての者が俺のために働き、そして死ね』だったかと」


なんだそりゃ!?


「な、なかなか尖ってますね……」


他にも過去の紅魔王の宣言を教えてもらったが、どれも似たりよったりでかなり独裁的なものが多かった。


「正解などございません。全ては陛下の御心のままに……」


「そうですか……じゃぁまぁ明日までに考えておきます……」


「はっ!かしこまりました」


そしてストラスもメイドさんたちも退室したのだった。



赤の魔王城内 某所


三魔将が会議室に集まっていた。


「エベリナ、具合はもう良いのですか?」


ストラスは紅魔王ダブルムーンの部屋を出たあと、直行でここにやってきたのだった。


「え、ええ……もう大丈夫。わたくしの事よりも、ザリオス……死ななくて良かったわね」


エベリナの視線の先には体中を添え木で固定されて歩くのも大変そうなザリオスがいた。


「ゼェ……ゼェ……あぁ、あの御方の力量を読み誤った我が未熟さの滑稽なことよ。勝負などと申しておきながら、お戯れの一突きであわや死ぬところであったわ……ガハハハハ!ゴホッ……ゼェ……ゼェ……」


「私も遠目に試合を見ていましたが……やはり……どうやらあの強さは本物のようですね」


「うむ……身体の運びは荒削りなれど、その基礎能力が異次元であった……」


「ん〜!素晴らしい……素晴らしいですわ!」


エベリナは身をよじらせて歓声を上げた。


「なんにせよ……先王アンブラーの様な暴君となることは断固阻止せねばなりません。我々はもちろん、家臣や民が陛下の御機嫌を損ねることのないよう気を張っておかねばなりませんね」


「そうね……あの御方なら大丈夫だとおもうけど。昨日今日とご一緒していた限り、あのヤギ頭みたいなイヤな感じは全くしなかったわ」


「うむ……手合わせして我も彼の御方に邪心がないことは感じた……」


「先王アンブラーは最初から『邪王』でしたからね……」


「まずは明日の戴冠式を無事に乗り切ることが出来るか、ですわね」


「ええ。明日、戴冠式を行うことには同意していただけましたよ」


「そう……良かった」


「今日のザリオスとの戦いを見てまさか正面から歯向かうような馬鹿は居ないと思いますが……くれぐれもそんな馬鹿が現れないよう我々で目を光らせておくとしましょう」



戴冠式?……何となくイメージはできるけどもちろん経験はない。


どんな国にしたいか?……まずこの国をよく知らない。なんせ初めてここに連れてこられたとき以来、この2日間城の中にしかいたことがないのだから。


そんな感じでなんだか思考がまとまらなくなった俺は、息抜きも兼ねてと思ってこっそり城下街へと繰り出したのだった。


城からの脱出は簡単だった。自室の窓から全力で飛び出し、あとは3段ジャンプであっと合う間に城壁の外にやって来たのだった。


「ふぅ……確か市街地はあっちの方だよな……」


魔王の国、がどんな国かも分からないのであまり人目につくのは良くないだろう、というわけで家々の屋根や高い木の上を跳びながら移動している。


数回のジャンプであっという間に城下の中央広場のようなところに着いた。広場にはいくつも店のテントが立ち並び、さすがは城下町といった賑わいを見せている。

 

今はこの辺で一番高い建物(といっても3階建てくらいだけど)の上からこっそりと人々の観察をしている。


「おー、蜥蜴人族(リザードマン)!あっちは獣人か!子鬼(ゴブリン)大鬼(オーガ)…それからあれはアンデッドか!?」


ハイランド王国では見たことのない種族がその辺を歩いている。


ゴブリンの背丈は俺と同じくらいだ。

最近会う人はみんな大きいから少し愛着が湧く。


しかし見たところ、ボロ布のような麻布しか身に付けていないし、かなり可哀想な扱いを受けているようだ。


「おら!さっさと歩け!」


「へ…へい……」


首輪を繋がれ、自分の背丈の倍ほどもある大きな荷物を持たされたゴブリンがいかにも強そうなオーガに引っ張られている。


「奴隷……なのかな?」


魔王の治める国だし、そのくらいの人権侵害はあっても不思議ではないが……見ていて気分の良いものではない。


やり場のない怒りの腹いせに小さな小石をオーガに投げつけたら、太ももを貫通してうめきだしてしまったのでそそくさとその場を退散した。


移動した先は広場に続く大通りから一つ二つ外れた裏路地で、俺は再び足元を行き交う人たちの観察をしたのだった。  


種族は様々だったが子供が多く、皆ひどくみすぼらしい格好をしていた。


中にはもはや動く力もないのか、道の端にうずくまってぴくりともしない子供の姿も見受けられた。


しかし今この瞬間に俺ができることはなにもない……


なんだか城でご馳走を貪っていた自分が少し嫌になった……


広場とこの裏路地を見ただけだが、この国の人たちには力によるかなり厳しい上下関係があるのだろう。


強者と弱者……勝者と敗者……か。


俺はふと現実世界のことを思い出した。


俺自身、就活という競争に負けた一人だったし、今はフリーター。金もないし、仲の良かった昔の仲間ともあまり連絡を取らなくなった。それどころか大学を卒業したあとに第一線で活躍していると言う噂を耳にした昔の仲間に対してなにか劣等感のようなものを感じてさえいた。


塾で子供たちに授業をしているときも「将来は〇〇になりたい」なんていう無邪気な子供にどこか羨ましさと、そしていつかその子が希望を失ってしまうことへの不憫さを感じることがあった。


自分らしく、やりたいことができない……俺の実力が足りないせいだというのは重々承知しているが、それでも社会を恨みたくなることが何度もあった。


そういう現実から逃げ出したくて、こうしてオンラインの世界に来たんだよなぁ……


そう、この仮想の世界でなら、現実では叶わなかった自分らしい生活が送れると思ったんだ。


「くそっ……」


なんだか色々と考えたくないことばかり考えてしまい、無性に苛立った俺はそう吐き捨てると俺は城へと帰ったのだった。



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