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第6話 俺ってば強くなってる、と実感した日

翌朝、元の世界の自分の部屋のものより遥かに寝心地のいいベッドで一晩休んだ俺は、これまでに経験のないほど気持ちよく朝を迎えた。


「ふぁぁ……」


モニターを確認すると、元の世界の時計はグレーアウトしているが、こっちの世界ではどうやら朝の8:00を少し過ぎたくらいのようだ。


コンコン……


扉がノックされたので返事をすると、エベリナさんと数名のメイドが部屋に入ってきた。


「おはようございます、陛下」


「「「おはようございます!」」」


「お、おはようございます。皆さんいったいどうしたんですか……?」


「陛下の朝食をお持ちしたのですよ。この者たちは我がブラッディマリー家の侍女たちですので、今後はなにか雑用があれば好きにお使いくださいませ」


「「「よろしくおねがいします!」」」


何だこの美女軍団は……ここは魔族の国じゃなかったのか?……いやいや、どう考えても天国だろ。


そしてメイドさんたちの手でテーブルに朝食が並べられていく。


材料は知らないけど見た目は豪華なホテルのモーニングと変わらないようだ。ちゃんとコーヒーまで出てきた。


「うん……美味い……」


昨日のローストビーフにはやや劣るけど、朝食のメニューもなかなかのものだ。


「陛下のお口にお合いになったようで何よりですわ!」


エベリナさんも満足そうだ。


その後は、風呂を使わせてもらったんだけど、エベリナさんが俺の背中を流すと言い張って聞かず止めるのが大変だった。


着替えは城にあった子供服がちょうど良いサイズだったのでとりあえずそれを着ている。


………

……

 

「陛下……午後は何をなさいますか?」


エベリナさんは昼食に舌鼓を打つ俺の横にずっと侍っていた。


一緒に食べようと誘ったけど断られてしまった……


「うーん……あ!そうだ!昨日力を開放したので、体を動かして調子を確かめたいのですが、運動できるような広い場所はありますか?」


「それでしたら、城の中庭をお使いになるのがよろしいかと」


エベリナさんは窓の外の広場を指差した。


見たところ、学校の運動場くらいの広さはありそうだ。


「おぉ!ありがとうございます!」


というわけで俺は、ステータスアップの成果を確かめるべく中庭へとやってきたのだ。


「まずは……ジャンプ!」


軽く膝を曲げて跳んでみた。


バシュッ……


「おおぉ……!?」


まだ全然本気ではなかったが軽く10メートル以上は跳んでいる。


着地がうまく行かず尻餅をついてしまった……


「へ、陛下!?大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫っす!」


ジャンプは後回しにしよう……

次はダッシュを試みることにした。


ビュン……


ちょっとだけ、と思ってクラウチングスタートをやってみたら一瞬で100メートルは先にあった

壁に激突してしまった。


「ははは……お恥ずかしい。ちょっと急激に力が増したので上手くコントロールが効かないんです。それより……すいません、壁壊しちゃって……」


そして、全く痛くなかったということは、防御力もきっとかなり上がっているのだろう。


今の俺はいわゆる『パワーレベリング』されたような状態で、つまり実力とレベルが全然釣り合っていないのだ。


「いえ、お気になさらず……それよりも、くれぐれもご無理はなさいませんように」


エベリナさんが本気で心配してくれている。


心配と迷惑をかけ続けるわけにもいかないし、早いところこの身体に慣れなければ!


その後は瞬発力系の運動を一旦無視して、基本的なジョギングやストレッチなど、身体に慣れるトレーニングに集中することにした。


結果としてはそのほうが良かったみたいで、数時間後にはかなり上手く自分の身体を動かせるようになった。


シュババババババッ……


今は自分の残像を追いかけて遊んでいる。

だいぶ身体能力の限界を知ることができた。


「へ、陛下……!?」


気がついたら放ったらかしにしていたエベリナさんが若干引いていたっぽいから、止めることにした。


「すいません……つい楽しくなって遊んでしまいました」


「い、いえ……御力は戻ったようですわね」


「ま、まぁ……ぼちぼちっすね!」


ぼちぼちとか……嘘つくなって?そりゃぁ俺にだって罪悪感はあるさ!


そして中庭から屋内へ戻ろうとしたタイミングで………会いたくなかったやつが来た。


「我が主!探しており申したぞ!我と一騎打ちにて勝負されたし!」


……ヤツの名は、ザリオスくん。


「や、やぁ……」


「なぁに、命のやり取りとまでは申さん!如何か!?」


……如何か!?じゃないわ!下手したら死ぬっての!身代わりの人形もエリクサーもあと一個ずつしかないんだから、こんなことで無駄に消費したくはない。


「あぁ……ま、また今度にしよ……」


「陛下!良い機会です、ザリオスめに先程お戻りになった陛下の御力の片鱗を見せつけておくのがよろしいのではないでしょうか!」


……え?エベリナさんはきっと止めてくれると信じてたのに……


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」


ザリオスくんが力を溜め始めるとビリビリと空気が震え始めた。


ガヤガヤガヤ………


それに気づいた城中のものが俺たちのいる中庭を見下ろすように城の至るところから顔をのぞかせている。


何人かは近くで戦いを見ようと中庭まで降りてくる始末だ……


……八方塞がりか……


「はぁ……分かった分かった……」


身体能力もかなり上がったし、そう簡単に死ぬことは無いだろう。


適当に手合わせしてキリの良い所で逃げるか負けたフリでもしよう。


俺はそれっぽい構えをとってザリオスに相対した。お互いに得物は無い。


「む……我が主……魔王覇気は纏わぬのか?」


「え?要る?」


あれは格下にしか効き目がないって書いてあったし、ザリオスくんとの戦闘にはあまり関係ないと思うんだけど……


「後悔なさらぬように!行くぞ、我が主!」


俺の数倍は体の大きいザリオスくんが、体躯に見合わぬ素早い動きで距離を詰めて巨大な拳を振るってきた。


俺はそれをステップで躱す。するとまたザリオスくんが距離を詰めて殴りかかる。


しばらくこれが続いた。


……これは……様子見されてるのか?


「ふぅぅぅ……何という速さか」


いや、ザリオスくん結構本気っぽいぞ?それともこれはブラフなのか?


「ま、まだまだだね!」


とりあえず相手の出方を伺うため、俺はザリオスくんを煽ってみることにした。


「ぬぅぅぅ……まさかこれほどとは。しかし、逃げるだけでは我は倒せぬぞ!」


ザリオスくんはやはり先ほどと同じくらいの速さでしか攻めてこない。


躱すのは余裕だと分かったが、確かにこちらから打って出ない限りザリオスくんにダメージもない。


ただ……あんなにデカくて硬そうな身体に武器もない俺の攻撃が通るとも到底思えない。


うーん……どうしたものか。


そして俺が攻め手を考えあぐねている一瞬のスキを見逃すザリオスくんではなかった。


「戦いの最中に気を逸らすとは油断したな、我が主!」


「しまっ……!?」


バコンッ


まるで車が正面衝突でもしたかのような、すごい音とともにザリオスくんの剛拳が俺の顔面を捉えた。


やべ、これは詰んだ……

 

………


「おーっとっとっと……ビックリした……」


しかし、俺にはニ、三歩後退する程度の衝撃とダメージしか入っていなかった。


「馬鹿な!?」


ザリオスくん……表情は分かりにくいけど声はかなり驚いているようだ。


そりゃそうだ、俺だって死んだと思ったもん。


これはどうやら、ステータスMAXというのは尋常じゃない強さということだろう。おまけに魔王スキルのおかげで150%アップ中だし。


となれば、俺の攻撃が通る可能性も高い。


「むふふ……ザリオスくん、次は俺のターンってことで」


俺は動きのギアを一つ上げて、一瞬でザリオスくんの側面に移動した。


「な!?速いっ」


反応が遅れ側面がガラ空きのザリオスくんのボディに、「それっぽい」正拳突きを放った。


「せいっ!」


「グむぅっっ……」


重たい打撃音にザリオスくんの口からこぼれる苦悶の声……ザリオスくんは身体をくの字に曲げたまま一直線に吹っ飛び……再び中庭の壁を破壊した。


……やべ、やりすぎた。


加減したつもりではいたがこんなもんじゃまるで駄目だったらしい……


やがて瓦礫と化した中庭の壁を押しのけてザリオスくんが立ち上がった。


「ゼェ……ゼェ……さ、流石は我が主……その強さ……底が知れん……」


そう言い残してバタリと倒れてしまった。


城内から湧き上がる歓声に俺は手を振って応え、模擬戦はこれで終了となった。




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