第3話 どうやらここは異世界のようだ……
翌朝……というか目が覚めたら12時だったんだけど……
買っておいた菓子パンを一瞬で平らげ、すぐにPhantomVRを装着してアルカディアをスタートした。
冒険者組合にはかなりの数のプレーヤーがいた。
「ハヤテは来て……まだいないよな」
フレンド欄を確認するとハヤテはオフラインだった。
『インしたら教えて!ちょっとMAP探索行ってくる!』
メッセージを送って俺は王都の外へ探索に出ることにした。
王都の外に出てみてはじめて、この場所が小高い丘の上だということがわかった。
視界は良好、まるで肉眼で見ているかのように遠くの方までよく見える。
俺たちの拠点ハイランド王国の王都ハイランドは四角いマップで見ると右下の隅の方に位置している。
「さて、んじゃ行きますか」
俺は街道をMAPの端に向かって走り始めた。
走る=スタミナを減らす方が歩くよりも経験値になるのでは、と予想してのことだったが正解だったようだ。
同じ距離歩くよりは倍近く経験値が多い。
そしてスタミナもわりとすぐ回復するので移動速度もこっちのほうが早い。
そしてMAPの端を目指したのは単に俺の趣味…!というか昔からこういうオープンワールド系のゲームをやると必ずマップの境界を確かめたくなってしまう性格からだった。
しばらく走ったところでマップを確認すると、それまでボヤケていたところが雲が晴れたように明るくなっていた。
「こうしてみるとMAPすげぇ広いな……とりあえず夕方には戻らなきゃだから右下の方を探索してみるか」
というわけで街道からわざと少し外れて南下することにしたのだ。
草むらや雑木林に入ると動物型や昆虫型の魔物が現れたが、極力戦闘は避けながら進み続け、王都ハイランドの南にやって来たのだった。
今の俺だと虫はともかく、熊の魔物なんかにまともに攻撃されたらひとたまりもないだろうな。
そしてついに四角いマップの南端にたどり着いた。
他のゲームでは境界が絶対に登れない高さの山や落ちたら即死確定の崖になっていることが多いが、そこはアルカディアも同じ感じだ。
そして断崖絶壁の前まで行くとモニターには赤文字で「KEEP OUT」と警告が出た。
こういう辺鄙な場所には結構な確率で宝箱があるもので、断崖絶壁に沿って歩いてみると色々と手に入った。
■魔力の泉(装備・指輪)
※毎秒ごく少量ずつMPを回復する
■魔導書(火球)
※使用すると魔法を習得できる
他にも手に入ったけど、取り急ぎこれらはメリットしかないので是非使用したいところだ。
ステータス画面ではMPの表示はグレーアウトされていたが、スキル欄を確認するとExポイント1で「魔法Ⅰ」というのが開放できたので早速ポイントを振ってみるとわずかだがMPが10になった。
早速近くの木に向けて覚えた火球を撃ってみると小学生でもホームランが打てそうなほど優しく火の玉が飛んでいって着弾した。
【魔力の泉】のおかげで10秒待てば何度でも撃てるので繰り返し実験を重ねてみた。
方向や距離は本当にボールを投げる容量でコントロール出来るみたいだが、どれだけ本気で投げても下級の飛ぶ速度や威力は変わらなかった……
……コレ敵に当たるのか??
とりあえず今度はなにか生物に使ってみよう、ということで絶壁に沿って歩いていると木の上に止まっている鳩のような鳥を見つけた。幸い向こうはまだこちらに気づいていない。
あいつならトロそうだしイケるかも。
練習の成果を見せてやる!
と火球を放ったが、やはり速度が非常に残念だ。気づかれたら絶対に逃げられるだろうな。
頼む!気付くな!
そしてなんと、俺の祈りが通じたのか火球はボフッというソフトな音とともに鳥にヒットした。
おぉぉぉ!やったか!?
いや、即死のダメージは与えられなかったらしい……
鳥は慌ててその場から飛び去った。
残念だがもっとスキルを上げて出直してこい、ということだろう。
しかし、ここで奇跡が起きた。逃げ去った鳥には延焼ダメージが入っているのか、まだ上空で燃えていたのだ。
そしてついに力尽き、フラフラとマップの向こう側の崖に向かって墜落していく。
画面に「ノバトを倒した」と表示が出た。
俺はガッツポーズを作って、墜落するノバトを眺めていたのだが……
「………あれ?」
ノバトは何もない崖の真上、俺との距離5メートルくらいのところで、まるで地面に激突したかのようにピタリと止まって死んでいる。
崖の中に落ちていくさまを想像していた俺としては少しがっかりではあったが、同時に一つ試したいことが出来た。
「あそこ……行けるんじゃね?」
試しに小人族が最初から使えるスキル『2段ジャンプ』で崖と反対側の大地に向かってに飛んでみるとちょうど5メートルくらい跳躍できた。
「バグるか?……いや、どうせ死亡扱いで神殿リスポーンにされるくらいだろ」
モニターで時計を確認すると15:31、どうせそろそろ王都に戻ろうと思っていたタイミングだ。仮に死に戻っても大して支障はない。
「せーのっ!」
助走をつけて、崖に向かってダイブ。
モニターには煩いくらい「KEEP OUT」のアラートがポップアップしている。
………
そして俺は、何もない崖の上に着地した。
足元に転がるノバトの死体を戦利品として回収しマジックバックに放り込んだ。
その時だった、パリンという音とともに、何もなかった透明な足場が消えてしまったのは……
「おわっ…!?うわぁぉぁぁぁ……」
俺はそのまま崖下へと吸い込まれるように落ちていったのだった。
………
……
…
10秒?いや、もっとかもしれないが、俺は絶叫しながらフリーフォール真っ最中だ。
ゲームとはいえ、落下中の胃が上がってくるような感覚は気持ち悪いから死亡するなら早くしてほしいものだ。
そしてついに、視界が開けた。
「お?」
周りを見渡すと今度は何もない……ただの夜空。
ん?さっきまで地中に向かって落ちてたはずなんだけどな……
急に手足が寒くなるし、顔に風が吹きつけてくるので、目を開けているのもやっとだ。
そしてはるか先に地表が見えたとき、俺はこの違和感に気付いてしまった。
「 寒い?目が開かない?……そんなわけ無いだろ、これゲームだぞ」
しかし実際そうなっているのだから、これは紛れもなく現実なんじゃないか?
異世界……
一瞬頭にそんな言葉がよぎったが、冷静に考える余裕などなかった。
なんにせよ、この高さでこのまま落ちたら確実にトマトのように潰れて死ぬのだから。
地表まであと1000メートルほどだろうか、もう数十秒もしない内に俺は多分死ぬ。
もし去年、就活に失敗してなかったら……
もっとマシな人生歩めていれば……
開かない目から涙がこぼれ、言葉にならない気持ちが雄叫びとなって口から溢れた。
「うあぁぁぁぁぁぁ〒×€%+→☆<#……」
そして俺はそのまま地上の何かに激突して気を失った。
取り急ぎ、転移するところまで連続で掲載しました!
感想などいただけると嬉しいです\(^o^)/




