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第9話 魔王、頑張っています

俺が紅魔王として正式に即位してから一週間……


毎日が凄まじい速さで過ぎていった。


俺もある程度魔王としての生活に慣れ、態度だけならすっかり偉そうな魔王になったのだ。


三魔将曰く、魔王は敬語など使わない……ということで徹底的に脱敬語トレーニングまでさせられた。


そして今は赤の国の状況を知るために三魔将の3人と、それから各大臣たちとミーティングをしている真っ最中……


「税って90%もとってるの!?」


俺はまず一発目の財務大臣の報告に耳を疑った。


そもそも赤の国はほとんど他国との交流がないため貨幣の流通量は少ない。なので税は基本的に現物なのだが……90%も取られたら死ぬでしょ。


「は、はい……それが先王の方針でしたので……食うものに困れば雑草でも食え、と……」


冷や汗を浮かべ頭を下げる財務大臣。グレゴルの一件で怖がらせてしまったようだ……


「あ……いや、状況が知りたいだけだったわけだし、むしろ正直に報告してくれてありがとう。とりあえず最低どのくらいあれば国が維持できるのか、試算してみてもらっていい?」


「し、承知いたしました!」


これは早急に改善が必要だ。


次は外務大臣の報告……


「赤の国の周りにはいくつかの種族の集落があり、どれも我が国に隷属しております。交易はそれらの集落のみを相手に細々続けている状態でございます」


……出たよ、隷属。また力で押さえつけてるんだからほんとに暴力的で嫌になっちゃうね。


おまけに立場はこちらが上だからといって法外な値引きをさせて取引をしているらしい。

もちろんこちらから何かを売るときは法外な値段をふっかけて……


「ふーん……隷属ってのも見直しが必要だね……」


「し、粛清でございますか!?」


……なぜそうなる?


「いやいや、違うでしょ。まずは族長たちと会いたいんだけど、手配できる?」


「か、かしこまりました。陛下のご命令とあらば引きずってでも……」


「いや……普通に招待してね?」


ほんとに……歴代の魔王がどれだけぶっ飛んでたかを思い知らされる。


そして国防大臣の報告。ちなみに国防大臣はストラスだ。


「ここ最近は近隣との争いはございませんでしたが……昔は同じく魔王の統治する黒の国とよく争いになっていたと記録されています。まったく……我らが赤の国に対抗して国を名乗るだけでもおこがましいのに、さらに魔王を名乗るなどと不敬の極み!」


「黒の国?っていうか俺にはまだこの辺の地理がよく分かってないんだけど……」


「そうでしたね。まず我らが赤の国はこちらに……」


ストラスは大きな紙を召喚して俺の前に広げてみせた。


「これは……地図?」


俺のモニターでは近隣は霧がかかっているから制度や縮尺はよく分からないが、この国の周辺のことが書かれているようだ。


「左様でございます。こちらに描かれておりますのが『魔界』の全土、赤の国がこちらでございます」


「ふーん……ここは魔界なのか。それで、黒の国だっけ?」


「はい、黒の国はこちら……魔龍山脈という縦長の山脈が事実上の国境線になっております。それから……こちらはほとんど情報がございませんが、他にもう一つ白の国という国がございます」


黒の国は地図を見る限り領土も赤の国と同じくらい広い。そして魔龍山脈には何匹もドラゴンの絵が描かれているからほんとに魔龍が出るのだろう。


ストラスが白の国と言って指したのは地図のかなり外れの方にある小さな空白地帯。


「噂では、すべての民が死霊またはアンデッドなのだとか。白の国の先には死の大地と呼ばれる呪われた荒野が広がっており、そのさらに先に人界があると言われているのです」


なるほど……逆に考えれば人族は死の大地を越えて白の国を抜けることで初めて魔界に到達できるというわけか。


「ありがとう、ストラス。魔界の地理もそうだけど、他の国のことも知りたいから今度探索に行ってみることにするよ」


「かしこまりました!その際にはムーン様の威光を魔界全土に知らしめるべく、ザリオスを筆頭に兵士10万からなる大遠征軍を……」


「……編成しなくていいからね?」


「か、かしこまりました……」


そして最後は国内の諸々を……内政大臣を務めるエベリナさんから報告してもらった。


「まず、先日の元奴隷100名は無事に保護しております。帰郷を望むものもおりますので、そちらについては数日中に軍で護衛して集落まで送り届ける予定となっておりますわ」


「そっか……ありがとう」


「いえ、皆ムーン様に大変感謝しておりました。中にはムーン様にお仕えしたいと申し出るものもおりますが……いかがなさいますか?」


「仕える……か。いま人手が足りない仕事はある?」


支出を抑えようと決めたばかりだし、無駄なことに費用はかけられない。


「そうですわね……現在だと市民への炊き出し要因がいささか不足しております。あとは陛下の仰った農地整備の人手でしょうか?」


「そっか……それはどっちも必要だね。給料は必要最低限にさせてもらうけど、それでもいいというのなら仕事をやってほしい」


「給料……といいますのはお給金のことですか?」


「え?……そうだけど……?」


「それなら皆不要と申しております。三食と寝床だけあれば、あとは命の恩人であるムーン様のために身を粉にして働きたいのだとか……」


うーん……奴隷から解放しただけでそこまでしてもらうのはだめだな。


「ダメだね。給金は1日10ゴールドは出す!それが条件だから、飲めない人には諦めてもらおう」


「かしこまりました。そのように申し伝えますわ」


この日の会議はこれで終わりだ……最後に財務大臣が慌てて試算結果を報告に来たけど、結局税は15%ちょっと貰えば全然なんとかなるらしい。


というわけで、さっそく次の納税から税率を変えることを宣言した。


最近は夕方から夜の間にザリオスくん、いやザリオス先生から武術を習っている。


なんとザリオスくん、ほぼすべての武器の扱いが師範クラスというスーパーハイスペックだったのだ。


「我が主……そんなに力任せに剣を振っては剣のほうが保たぬと具申する」


「う……すいません……」


「ガハハ!我が主にも出来ぬ事があるとは驚き申した」


そう言ってザリオスくんは木刀を地面に突き刺し、代わりに細い木の枝を拾ってきた。


「この数日で我が主は見違えるほど上達なされたが、まだ武器を道具として扱っておられる。武器とは体の一部……これを『剣身一体』の極意と申す。武器に己が心を通わせ、正しき呼吸でこれを振るわば……セイっ!」


ザリオスくんはなんとほっっっそい木の枝で木刀をスッパリと両断してしまった。


「おぉぉ……!」


気づけば勝手に体が動いてザリオスくんに拍手を送っていた。


「主よ……何を他人事のように。我が主には少なくともこのくらいの事はできるようになってもらわねば困り申す」


「え゛っ……」


「さぁ、特訓あるのみ!」


そしてこの後も毎日毎日厳しい訓練は続くのだった……


…………

………

……


そして夜。いつもなら部屋で夕食をとって風呂に入って寝るところだけど、この日は城下で大々的に夜食の炊き出しをやるらしいので見に行ってみることにしたのだ。


「まだ一週間くらいだけど、だいぶ街が賑やかになったね」


「ええ。これもムーン様の人徳あってこそかと」


俺の横を歩くのはエベリナさん。こんな美女を侍らせて大通りを歩くなんてリアルではとても考えられない。


街の人達も少しずつこちらに気付き始めたようだ。

ただ、それは俺を見てではなくエベリナさんを見てなのは明らかだったけど……


「これはこれはエベリナ様。本日もご機嫌麗しゅう」


「久しぶりね、トドグロ。今宵は難民たちへの炊き出しがあると聞いてその様子を見に来たのです」


話しかけてきた蛇人族(ナーガ)のおじさんは城下の顔役のようだ。


「おぉ、左様でございましたか。ぜひお時間の許す限りご覧になって行ってくだされ」


「そうさせてもらうわ」


エベリナさん、俺以外の相手にはこんなにツンツンしてるのか。


「して……そちらのお子様はどちらかの貴族のご子息でしょうか?」


ビキッッ


ヤバい、エベリナさんから変な音がした。


「トドグロ……あなた、死にたいのかしら?」


「そ、そんな!?滅相もございません!」


ナーガのおじさんはいきなり目つきの変わったエベリナさんに戦々恐々としている。


「ま、まぁまぁ……エベリナさん。俺だって皆に会うのは初めてなんだしそんなに怒らなくても……」


「え……えぇ……そうですわね。大変失礼いたしました。トドグロ、今回はムーン様もこのように仰っておいでだから殺さずにおきますわ」


「ムーン様……?ま、まさか!?あなた様が新王ダブルムーン陛下ですか!?」


トドグロさん、声がデカイよ。


案の定、周囲の人たちが一斉にこちらに注目している。


「えっと……まぁ、そういうこと」


「な、な、な、なんとぉぉぉ!大変、大変失礼いたしました。どうかどうか私めの命だけでご容赦頂けませんでしょうか……」


トドグロはわなわなと震えて泣き出してしまった。


「いやいや、そんなに怒ってないから……それより、これからも街の人達を助けてやってよ」


「なんと……御噂通りのご寛大さ……このトドグロ、城下の住民のためにこれからも身を粉にして働きまする」


なぜかその場に平伏するトトグロ。いや、目立つだろ……


「分かればよいのです。さぁ、いつまでもそんな所にいられると邪魔ですから早くお行きなさい」


エベリナさんはそんなトドグロにもキツかった。


すっかり街の人達から注目されてしまったが、大人たちは皆、遠巻きにこちらを見ているだけだった。


「こーまおーさま!こーまおーさま!」


「ごはんくれてありがとうございます」


無邪気に話しかけてくれるのは同じくらいの背格好の子どもたちだけ。

大人たちはそのたびに子供がなにか粗相をしないかと冷や汗まじりの様子だったけど、俺ってば子供には特に寛大だからね。


その後も結局、大人たちとの会話はほとんどなく、子どもたちばかりが俺の周りに集まった。


両親を失ったこと、路地裏で苦しい生活を強いられてきたこと、子どもたちは大変だった出来事を口々に話して聞かせてくれた。


俺はまだまだホントに未熟者だけど、彼らを守る義務がある。


「お前たちが楽しく生きられるような国にしてみせるから、これからも前を向いてしっかり頑張るんだぞ」


最後にそう言うと子どもたちは皆力強く頷いた。


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