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 ああ、もうだめだ――。


 重力のままに下に落ちて行く感覚は、ひたすらに絶望的だった。手足を必死に動かしても、何も状況は変わらない。前に見える、魔法の光のラインで描かれたコースはどんどん小さくなっていく。それはすなわち、自分が地面に激突する瞬間が近づいているということだ。たちまち、恐怖で体が凍りついた。きっとこのまま自分は死ぬのだろうと思った。


 だが、その瞬間、僕は黒い空の向こうに幻影を見た。それは、街の広場にたたずむ女の子の姿だった。そう、彼女は、僕の優勝を信じてそこで待っている……。


 まだ諦めちゃだめだ!


 そこではっと我に返った。ウニルから落ちたくらいで何だ! レースはまだ終わってない! 僕はまだ下に落ちてない! だから、まだやれることはあるはずだ! 全身に力がみなぎってきた。剣を握る右手に力を込めた。


「うおおおおっ!」


 空中で素早く体を回転させ、下を向くと、地表に向かって剣を大きく振った。そう、これでもかというほど、大きく。強く。


 瞬間、刃から強い突風が生じ、それはすぐ間近に迫っていた地表にぶちあたり、こちらに跳ね返ってきた。そして、それは僕の体を上に上昇させた!


「ウニル! 来い!」


 風に体を預けながら、強く叫んだ。すると、真上からこちらに落下してくる一筋の光があった。ウニルだ。その動きはまるで鷹が獲物を狩るときのような、すさまじい速さの垂直滑空だった。


 彼女は僕のすぐ横を通過すると同時に身を翻し、僕を背中に乗せ、回収した。それはほんのわずかの間、一瞬にも満たない半瞬の出来事だった。


「よし! もう一度、ジレを追うぞ! ウニル!」


 ウニルは僕に応えるように鳴き声を上げた。傷ついた翼を懸命に動かしながら。


「ヨシカズ、よかった、無事で……」


 ワッフドゥイヒの声には安堵の気持ちがありありと現れていた。だが、彼はすぐに「もうヤツを深追いするな」と再び僕を制した。


「今のでわかっただろう。あいつは本当に危険なやつなんだ。このままでは君の命が――」

「だめだ! 僕はここで引くわけにはいかない!」


 瞬間、強く叫んだ。


「ヨシカズ、君はどうしてそこまで……」

「言っただろう、僕は君を助ける、ただそれだけだ!」

「でも、俺は君を殴って……君の救いの手も拒んで……」

「だからなんだ! 誰だってそういう気持ちの時はあるだろう。君は僕の大事な友達だ。死んでほしくない。だから、助けるんだ!」

「ヨシカズ……君は……」


 彼の声がにわかにかすれた。そして、ややあって、彼はふいに笑った。


「バカだな、君は。本当に……」


 それはとても楽しそうな声だった。


「よし、わかった! 一緒にあいつを倒し、優勝しよう!」

「ああ!」


 彼の声は覇気を取り戻していた。僕はやはり勇気づけられる気がした。


「いいか、ヨシカズ。あいつに君の魔法は一切通用しないと考えていいだろう。だが、対抗策がないわけじゃない。直接攻撃だ」

「直接? そうか、これで――」


 右手の剣を強く握り締めた。


「君はあいつの爆炎魔法と槍斧の刃をかいくぐって、懐に潜り込むんだ。そして、一太刀でも浴びせれば、きっと――」

「勝てる、かな」 


 また無理難題を平気で口にするやつだ。僕は思わず笑ってしまった。そうだ、こいつはどんな無茶でも平気でやるやつなんだ。僕も無理でもなんでも、やるしかない。今はそれしかないんだ!


「よし、ウニル! このまままっすぐあいつに突っ込め!」


 手綱を引き、強く叫んだ。ウニルは答えるように鋭く一声鳴いた。と、同時にその水平に広げられた翼は弓のように後ろにたわみ、一気に前に加速した。ジレとの差がぐんぐん縮まっていく。その向こうにはもう街の広場があり、ランタン草の光で彩られたゴールが見えた。


「てめえ、まだ諦めてなかったのかよ」


 ジレはすぐに僕の気配に振り向き、忌々しそうに舌打ちした。


「くたばりぞこないが! もう一回、下に落ちやがれ!」


 再び彼の手から爆炎が放たれた。彼も必死なのだろう、それはさっきよりもずっと大きく、勢いが強かった。彼にまっすぐ突っ込んでいた僕達は、いきなり正面に炎の壁が現れたようなものだった。それはもはやよけられそうもないものだった。


 だったら――。


 答えは簡単だ。こうすればいい。前から迫ってくる炎の壁に向かって、僕は強く大きく剣を振った。


 炎の壁はその剣閃により、真っ二つに割れ、やがて霧散した。壁の向こうで、ジレが驚いた顔をしてるのが見えた。


「悪いね。君の魔法も僕にはもう通用しないよ!」

「てめえ……」


 ジレは歯ぎしりした。だが、それは一瞬だった。彼はやはり戦い慣れしていた。すぐに槍斧を構え、こちらに迫ってきた! 体躯に似つかわしくない、素早い攻撃と武器さばきだった。とっさに手綱を引き、それらをかわした。

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