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 それから僕はすぐに家に帰った。道を歩きながら、周りを見回してみたが、街並みはいつもと変わらない、とても見なれたものだった。夕暮れ時なので、仕事帰りと思しきスーツ姿の人や、食料品の入ったレジ袋を携えたおばさんなどが歩いていた。コンビニの前には頭の悪そうな若者が数人集まって、買ったばかりらしいアイスやらジュースやらをむさぼっている。


 やっぱり、さっきのは幻覚だったのかな。


 その若者達の視界に入らないように気をつけながら早足で家に戻った。


 家に入ると、玄関に妙にたくさん靴が並んでた。一階の、玄関のすぐ奥にある居間からは若い女の子達が楽しく談笑し合う声が聞こえてきた。


 智美のやつ、また友達を家に連れてきているのか。


 毎度のことながら、僕は嫌な気持ちになった。僕の一つ下の妹、早良智美。ごく普通の容姿とスペックながらも、僕と違ってぼっちじゃない。友達たくさんいる。スマフォとかバリバリ使いこなしてる。性格も超明るい。ぼっちの兄としてこれほど妬ましい妹はいなかった。やつが友達を自慢するように家に連れてくるたびに、居心地が悪くてたまらなくなるのだ。


 とりあえず、僕は忍び足で二階の自分の部屋に向かった。いつものようにそこで嵐が過ぎるのを待つのみ。


 だが、そこで、女の子達がいっせいに居間から出てきた。なんというタイミングの悪さ。


「あ、お兄さん、帰ってきてたんですね」

「お邪魔してまーす」


 女子中学生によってたかって声をかけられた。いかにもリア充っぽい、輝いてる感じの女の子達だ。それが、この暗黒のぼっち男子高校生に、声をおかけになっている!


「ど、どういたしまして……」


 僕は小声で言うと、素早く二階の自室に駆け上がった。胸がどきどきした。


 どういたしまして、なんて、意味不明なことを言って、変に思われたかな。今頃、みんなして、智美のお兄ちゃん、ちょっとキモくない?とか言ってたらどうしよう。言ってるよな。そんな感じったよな。それで、智美もけらけら笑って、お兄ちゃん実は学校で友達一人もいないんだよー、ってばらしちゃうんだ。うわあああん。


 女子中学生数人に声をかけられただけなのに、精神が大きく磨滅してしまった。僕の精神は豆腐よりも柔らかく、線香花火よりも儚いのだ。自分の部屋のカーペットの上に膝を落とした。


 しかし、そこでふと、山岸とはわりと普通に話せてたことに気付いた。


 そう、最初こそアクシデントがあって動揺してたが、会話はちゃんとかみ合ってたし、今味わったみたいな、卑屈で居心地の悪い感じもなかった。


 もしかして、同じぼっちだから……?


 それに、僕の小説と山岸の漫画はなぜか同じ内容だった。その上、同時にその世界の幻を見た。


 そう、僕と山岸には「同じ」がたくさんある。


 これはもしかして――運命?


 また胸がどきどきした。しかし、最初に睨みつけられた時の山岸の険しい表情を思い出して、そのときめきはすぐしぼんでしまった。


 話しかけた途端、どうせまた、あんな目で見られるんだろうな……。運命とか変な幻とか一気にどうでもいい気持ちになった。

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