表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/63

40

「昼間見たんだけど、あっちに小さい扉があって、内側にかんぬきがかかってるだけだったの。だから、それをなんとかすれば――」


 なるほど。僕は無言で山岸にうなずき、同じことをアニィとルーに話した。


「内側からかんぬき? 非常用の出口ってところかしら?」

「たぶんそんな感じだろう。だから、それを魔法を使わずになんとかできれば――」

「でも、ロープとか梯子とか使ってもきつそうな高さよ。そんなの使ってる間に絶対見つかると思うし」

「それに、そんな道具もないもんね」


 と、アニィの言葉にまたお気楽にルーが答えた。


「ルー、あんたって本当に緊張感ないわね。少しは真面目に考えなさいよ」

「えー? 魔法を使わずに中に入る方法? そんなのわかんないよ」


 またさらっと言う。そんな簡単に考えるのを諦めなくても……。


 しかし、そのときだった。


「そうだわ、ルー、あんたならどうにかできるかも」


 アニィが何か思いついたようだった。


「アタイが? どうすればいいの?」

「ちょっとこっちに来て」


 アニィはルーの手を引っ張り、僕の正面に立たせた。そして、自分はその背後に回った。一体何をする気だろう?


「ルー、あんたはまだ男の子と付き合ったことはないのよね?」

「うん。アタイ、まだ恋愛とかそういうのよくわかんなくて」

「だったらこれでいいかしら……」

「何が?」

「ごめん。先に謝っておくわ」


 と、言うや否や、アニィはルーのベルトの寄せ集めみたいな上着の肩ヒモをつかみ、なんと――いきなり下におろした!


 ぷるんっ。


「な――」


 一瞬のうちに目の前に現れた、女の子の胸の二つの白いふくらみに、ぎょっとせずにはいられなかった。それは本当に大きくてやわらかそうで、ぷるぷるしてて、ふくらみの先端は綺麗な桜色だった――。


「み、見ちゃやだあっ!」


 ルーはたちまち顔を赤くして、胸を手で覆った。が、その行動はあまり意味がなかったようだった。なぜなら、その次の瞬間には彼女はアヒルになってたからだ。


「ちょ、これはいったい、どういう……」


 口をパクパクさせながらアニィに尋ねた。


「ルーをアヒルにするにはこれが手っ取り早いかなって思って」


 アニィは舌を出しながら、いたずらっぽく笑った。


「ひどいよ、アニィ! アタイ、男の子に胸を見られたことないのに!」


 アニィの足元でアヒルが涙目で暴れている。「ごめんごめん」アニィは軽く謝る。


彼女達の足元にはさっきまでルーが身に着けていたベルトの寄せ集めみたいな服が散らばっている。よく考えたら今は全裸なんだよな……。アヒルなら恥ずかしくないのか。


 しかし、アヒルにするためとはいえ、いいもの見せてもらったなあ、ハハ。さっきの光景をしっかり脳内に保存した。


「早良君、なにニヤニヤしてるの」


 山岸は半開きのいやな目つきで僕を睨む。


「い、いや、すぐアヒルになっちゃったから、全然見えなかったし……」


 小声で言い訳したが、


「ウソ。今のはしっかり見て、しっかり記憶したって顔だったわ。いやらしい」


 不機嫌そうにそっぽむかれてしまった。まあ、実際その通りなんだけど……。


「で、でも、ルーをアヒルにしてどうしようっていうんだい?」


 とりあえず、アニィに尋ねた。


「そりゃ、決まってるでしょ。アヒルは空を飛べるじゃない」

「あ、そうか」


 今のルーなら魔法を使わずにあの建物の塀を飛び越えられるんだ。


「いい、ルー? これからその姿で塀の中に入って、塀の中でこれを食べて元の姿に戻るの。それで内側から扉を開けるの。それがあんたの仕事よ」


 アニィは懐からおもむろに豆が入っていると思しき袋を出した。そんなもの持ってきてたんだ。


「アニィ、それアタイにくれるの?」

「そうよ。仕事がすんだら食べていいわ」

「わかった、アタイがんばる!」


 ルーは目の前の豆を見て、一瞬で上機嫌になったようだった。これじゃ、まるで餌付けだ……。


 それから僕達は雑木林を出て、非常用と思われる小さな扉のすぐ前まで行った。そこは外側からは何もないただの壁に見えた。だがよく顔を近づけてみると、うっすら扉の形に亀裂が走っていた。きっと、外部の人間には秘密にしている扉なんだろう。


「あんた、よくこんな扉の場所、わかったわね」

「と、図書館の本に書いてあったんだよ。ハハ」


 また訝しそうな目をするアニィに、僕は適当に言い訳した。嘘だけど。


「じゃあ、ルー、頼んだわよ」


 アニィは豆の袋と服を背負ったアヒルを上に放った。その影はすぐに上昇し、塀を飛び越えて中に入って行った。


 そして、数分ほど待ったのち、


「う、うーん……」


 そんなふんばり声と共に、扉は内側からゆっくり開いた。やった、成功だ! 僕とアニィもすぐに手を貸し、一緒にその重そうな扉を開けた。


 中に入ると、そこはちょうど施設の裏側の狭い草地のようだった。運よく周りに人の気配はなかった。誰かに見つかったら大変なことになるだろうけど。


「こ、ここからは慎重に行こう」


 僕は抜き足差し足で建物のほうに進んだ。すると、


「あたしたちはここで待ってるわ」


 アニィはルーの腕を引っ張って、外に戻ってしまった。


「え……一緒に来てくれないの」


 一気に心細くなって、その場で足が止まってしまった。すると、アニィは足早にこっちに駆けてきて、僕の耳元で囁いた。


「ルーは一緒に連れていけないでしょ。あたしがここでお守りをしておかないと」


 そうか。ルーを連れて行ったらさすがにすぐ見つかってしまう。でも、本人は……。ちらりと彼女のほうを見ると、いかにも一緒に行きたがっている感じだった。これはさすがに、アニィに引きとめてもらう以外なさそうだ。


「わ、わかったよ。一人で何とかするよ……」


 自信がなかったがそう言うしかなかった。実際は一人じゃなくて山岸も一緒だし。


「あんた、本当に一人で大丈夫?」

「大丈夫……じゃないかも……」

「でしょうね」


 アニィはため息をついて、懐から小さな瓶を取り出した。中にはどろっとした青い液体が入っている。


「これは魔法の薬なの。飲むと少しの間だけ気配を消すことができるわ。目の前にいても気づかれないぐらいにね。でも、数分しか効果が続かないし、ワッフドゥイヒやルーやあんたみたいな、竜魔素ドラギル耐性の高い人には効かないのよ。気をつけて使うのね」


 アニィはそれを僕に手渡すと、また外に戻ってしまった。「ありがとう」僕はその小瓶を握りしめながら礼を言った。


「アニィって口はちょっと悪いけど、優しい子ね」


 山岸がつぶやくのが聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ