21
翌日、僕は山岸と共に再びラーファス学園竜都市に飛んだ。また山岸に頬を叩かれての異世界召喚だった。相変わらず痛い。
その日、僕が召喚されたのはラーファス学園竜都の中央にある噴水の前だった。よく晴れた昼間、そこにぽつんと立たされていたのだ。周りには以前と同様にたくさんの人通りがあったが、知り合いの顔はない……。
今日はお姫様とデートするはずじゃ?
どういうことなのだろうと、きょろきょろあたりを見回した。すると、ややあって、こちらに小走りで近寄ってくる人影があった。亜麻色の髪の美少女、フェトレだ。
「ヨシカズさん、すみません、お待たせしてしまって」
すぐそばまで来ると、彼女は軽く息を切らせながら僕に微笑みかけた。
おお、このシチュエーションは! まさに……デート!
まさか、こうもストレートに願いがかなうとは。昨日の戦闘イベントの長い前置きはなんだったのか。思い通りに事が運びすぎて感動してしまった。おそらく今日は、エリサ魔術学園は休みなんだろう。デートといえば普通は休日にやることだからな。
「じゃあ、行きましょうか。ヨシカズさん」
「う、うん」
僕達は並んでその場から歩きだした。
しかし、いったい、どこへ行けばいいんだろう? デートなんてしたことないし、ラーファスのデートスポットなんて知らないぞ。
「あ、あの、これからどこに行こうか?」
苦し紛れに尋ねると、
「まあ。お忘れですの。今日はわたくしのお買い物に付き合ってくれる約束でしょう」
どうやら、そういうことになってるらしい。全く記憶はないが、こちらのヨシカズ・サワラは僕があっちの世界に戻っている間に、ノートの通りにちゃんと彼女とデートの約束をしたということだろうか。うーん、ちょっと気持ち悪いけどまあいいか。ちゃんと前置きのイベントを書かなかった僕も悪いし。
「じゃあ、これからどこかのお店に行くの?」
「はい。よさそうなところはすでに目をつけてますのよ。ただ、ああいうものは男の人に選んでもらった方がいいと思いましたので……」
「ばあ」
一体何を買うんだろう。とりあえず、フェトレの案内するままに街を歩いた。
街は妙に活気づいているように見えた。人々はみなどこか忙しそうだったし、荷物を運搬している、大型の飛べないトカゲ鳥、ロ・ヌーも、頻繁に通りを行き来していた。看板を張り替えている店もかなり多かった。まるで街全体で何かの準備をしているような……。
「竜蝕祭が近いですから、どこも忙しそうですわね」
フェトレがそんな景色を見ながらつぶやいた。
「竜蝕祭って?」
「まあ、ヨシカズさんはご存知ありませんの。竜蝕祭というのは、竜都と竜都が重なった時に催される祭りのことですわ」
「竜都と竜都が重なるって……」
「世界竜というのは空をゆっくり飛んでいますから。その軌道が重なることがあるんですのよ。本当にごくまれに。竜学士様達の計算によると、このラーファスも、あと二十日で、グラスマインという竜都と重なるそうです。これは、二十年に一度の出来事なんだそうです」
なるほど。この世界にはまだまだ作者である僕には知らないことがあるんだな。
……本当に僕って作者なんだろうか? こっちに来てから、知らないことが多すぎるような。知ってることもそりゃたくさんあるけどさ。
やがて、僕達は大通りから少し外れたところにある、一軒の店にたどり着いた。看板には「ヌー具店」と書いてあった。ヌー具とは、ヌー家畜を扱うのに使うさまざまな専用の道具のことだ。鞍とか手綱とか拍車とか。ちなみに、ヌー家畜は、ラ・ヌー、レ・ヌー、ロ・ヌーの三種類がいるが、これらはみな、フォン・ヌーという、超大型の翼の退化したトカゲ鳥の卵から生まれる。こいつの有精卵を未熟な状態でふ化させ、特別なえさを与えて育てると、ふ化させた段階に応じて三種類のどれかに成長するのだ。これはさすがに、作者の僕がばっちり知っている設定だ。どうだ。
まあでも、フェトレがなんでここに来たのかは知らないんだけども……。
「ヌー学科の方達のお話によると、ここはとてもよい品を扱ってるそうですわ」
フェトレはそのまま店に入った。僕もとりあえず、後を追った。




