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「私、そういう自分ってすごく嫌い。それに、そういう自分が誰かに知られるのもすごく怖い。だから、誰かが親しげに話しかけてきても、構えてしまうの。変に仲良くなって、こんな恥ずかしい無様な自分を知られたらどうしようって……。それで、私、いつのまにかみんなを拒絶するような形になってしまって……。いやなやつだよね。みんな、転校生の私のこと、親切に思って話しかけてくるのに」

「そうだったんだ……」


 山岸は自分からあえて友達を作らないってわけじゃなかったんだ。他人が怖かったんだ。


「だから、私、早良君のこと、ちょっとうらやましく思ってたのよ」

「え、なんで僕を?」


 ぼっちでコミュ障でいいとこなしなのに?


「早良君はさ、私と同じように、誰とも仲良くなってないって感じだったけど、別に眼鏡をかけて自分を隠してるわけじゃなかったでしょ? ちゃんと素顔でみんなと向き合ってた。同じ、クラスで一人ぼっちなのに、私とは全然違うって思って……」

「そ、そうかな?」


 まさかこういう角度で持ち上げられるとは思ってなかった。ただぼっち生活してただけなのに。


「自分とちゃんと向き合えるってすごく大事なことだと思う。早良君は私と違って、それができるのね。だから、あっちの世界に行って、他の誰かと自分を比べて落ち込んだりできるんだわ」

「はあ……」


 またよくわからない褒め方をされてしまった。


「ちなみに、早良君は誰と自分を比べて落ち込んでたの?」

「ワッフドゥイヒだよ。隣の席なんだ」

「え……なにそれ」


 と、山岸は急に噴き出した。


「よりによって、彼なの。早良君がかなわないのは当たり前じゃない」

「ま、まあ、そうなんだけど……」


 山岸はけらけら笑っている。ちょっと恥ずかしくなってきた。


「あの人はきっと特別なのよ。主人公の中の主人公って感じ? 自分と比べて落ち込む必要なんて全然ないと思うわ。見た目からして全然違うし」


 山岸はふと僕に顔を近づけてきた。また、いきなり何を……。ドキドキしてくる。


「な、なんだよ?」

「やっぱり、早良君って全然かっこよくないね」


 山岸は楽しそうに笑いながら言った。


「でも、お話しするなら、そのほうがいいかな。本当にかっこいい人と一緒だと、緊張しちゃうもんね」

「そ、そうだね……」


 それはわかる。だって、こっちは今、緊張してるもん。


「ねえ、早良君はさ、今日は、あっちの世界に行って、あんまり楽しくなかったんでしょ? それはやっぱり、バトルに向いてないからだと思うの。いかにも草食系男子って感じだもんね」

「まあね……」


 山岸の表情は朗らかだが、さっきから的確にけなされてる気がする。


「だから、次はもっと違うイベントにすればいいと思うの。もっと、平和で、ほのぼのする感じの……」

「平和でほのぼの、ねえ?」


 いまいちピンとこなかった。


「そうだ。次はお互い何を書くか秘密にしましょ。それぞれ、内緒で好きなことを書くの」

「内緒かあ」


 もしかして、また僕達は同じようなことを書いちゃうんだろうか。それとも、今度は別なことを? 興味が湧いてきた。それに、平和でほのぼのとしたイベントなら、今日感じたような嫌な罪悪感もないだろうし。


「わかった、そうしよう」

「約束よ」


 山岸はふと僕の手をつかんだ。そして、自分の小指と僕の小指を軽く絡ませた。


 こ、これは……約束のしるし、指切り!


 そのくすぐったい感触にたちまち顔が熱くなってしまった。


「実を言うとね、こうやって誰かと指切りするのって、幼稚園以来なの」

「そ、そう……」


 山岸の笑顔はとびっきりかわいらしくて、まぶしかった。思わず、いや、必然的に僕は顔をそむけてしまった。やがて彼女の指は僕から離れて行った。


「じゃあ、また明日学校でね」


 そのまま、向こうに去っていく。僕は呆然としながらその後ろ姿に手を振った。


 だが、その姿が完全に見えなくなる直前、僕はふと、彼女に駆け寄り、呼び止めた。


「ねえ、山岸さん、あっちの世界では無理に眼鏡をつける必要はないんじゃない?」

「え、でも、眼鏡がないと私……」

「それはたぶん、大丈夫だよ。山岸さんの名前にフォンをつけたみたいに、ちょっと物語に嘘をつけばいいんだ。実は、僕もそうしてるんだ。こっちでは話下手なのに、あっちじゃそうじゃないって、そういう設定にしてる。山岸さんもそうすれば――」

「でも……」


 山岸はすごく乗り気ではなさそうだった。でも、僕としてはぜひそうしてほしかった。なぜなら……。


「そ、その、眼鏡がないほうがいいかなって僕は思うし……」


 うわあ。言っちゃった! 恥ずかしいこと言っちゃった!


「いいって、それどういう――」

「ごめん! 今のは聞かなかったことにして!」


 そのまま、初めて会った時のように脱兎のごとくその場から逃げだしてしまった。

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