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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ラブレター

作者: ゆるん

 ここはサンテパルル修道院に隣接されたお城で通称をラロカ城と言う。


 周囲からフラウ女王と呼ばれるその人は暗い部屋で今、手紙を書くことを趣味としている。

 毎日、少しづつ愛する夫への思いを綴っていた。

 最初はたいしたことのない量の手紙ではあったのだが、彼女はふと気がつくといつも手紙と向き合っていた。

 書いたり読んだりを毎日毎日、少しづつ繰り返しているうちに、そこそこの枚数がたまっていた。

 この日も彼女は、自らが書いた手紙を見ながらふと思う…

 15枚と言うのは、ラブレターにしてはちょっと多いのかな?

 すぐにそんなことはないなと納得をして、今日も彼女は自らが書いた手紙に目を通していた。


 内容はどのようなことなのかと言うと……


○○○○○


★1枚目

 おかえりなさい貴方、私はこの世で貴方をもっとも理解する女性です。 

 なので貴方が宮廷に帰れない現状においては理解できています。

 寂しくないといったら嘘になるけれども、心はいつまでも一緒の私たちですから今は泣き言なんて言いません。

 ただ、そうは言っても思いを馳せたいと思う夜があるのも、それは事実です。

 そんな時は、こうして貴方への思いを手紙へとしたためていくことにしています。

 もしも貴方がいつかこの手紙の存在を知ったとしても、バカになどしないでくださいね。

 恥ずかしいですから……


★2枚目

 いつも思いますが貴方と言う存在は本当に素晴らしい、私にとっては理想の存在です。

 私は貴方もご存じの通り自他ともに認めるカトレック教徒になります。

 カトレック教徒において結婚と言うのは、神の制定により行われるものです。

 当然、一生涯において一度のみ許されるもので、後悔や失敗などと言うものは許されません。

 そう言ったことを考えると、私とハップンブック家神聖ローメ皇帝マトミリアン1世の長男である貴方、ブルガリア公プリッフと私、フラウとの結婚は正に誰もが羨むような理想的な結婚であると確信いたします。

 なので最初、お母様からこのお話を頂いたときは、自分の耳を何度疑ったことでしょう。

 お母様には何度も聞き返すあまり、最後には煙たがられてしまったことを今では鮮明に覚えております。

 でも、それは貴方の方も同じ感覚と言うものを感じていたはずです。

 だって、最初に貴方と出会った時の顔に、そう書いてありましたから。


★3枚目

 貴方と最初にあった時の衝撃は今でも鮮明に覚えております。

 すらりと延びた身長や精悍でハンサムな見た目だけではありません。

 以前遠巻きにですが、一度だけ拝見した貴方の母上であられるブルガリア公マーマレード様を思わせるような輝く金色の髪と青い目。

 周囲の方々が貴方のことをプリッフ美公とか端麗公などと呼ばれる理由が納得いきました。

 ですが衝撃を受けたのは、どうやら貴方の方も同じだったみたいですね。

 だって、貴方と言ったら私と会って挨拶もそこそこのうちに誰もが聞こえるほどの大きな声で

「何故、司祭がこの場にいないのだ!早く連れてこい!」

 何て言うんですから。

 あの言葉を聞いて私は恥ずかしいなんて一切思いませんでした。

 それどころか、やはり貴方は私の運命の人だと確信したんです。

 そんな私たちだからこそ、あれほど激しく情熱的に初夜を迎えることができたのだと思います。


★4枚目

 男性だろうが女性だろうが誰にでも平等に接して優しい貴方。 

 そんな貴方との蜜月は非常に刺激的でした。

 一日一日、私の心が貴方で満たされるのを感じる度に快感を覚え、夢中になっていくのが自分でも分かっていきました。

 それは貴方も一緒だったはずです。

 だって気づくと私は、いつも貴方の世界にいたのですから当然気付きます。

 だからこそ長女エレオノーラが生まれたのでしょう。

 でも逆に、そんな時だからこそ貴方のことをもっと見てあげることが出来れば良かったと今更ながら思っています。

 

★5枚目

 最初は宮廷内の噂話でした。

 貴方が女官の一人と関係を持っていると言う話をしている者がいたんです。

 私は思いました。

 貴方と私はカトレック教の教えを忠実に守る理想的な二人。

 そんな貴方が、浮気なんてするわけがないんです。

 だから私は何日も一人で必死に考えました。

 それは苦しくて苦しくて泣きたくもなりましたし、嫉妬や猜疑心で押し潰されそうにもなりましたけど、ある結論が出たんです。

 それは、悪いのは貴方ではなく女官の方だと言うことがです。

 と言うのも、貴方は男性でも女性でも誰にでも優しくしてくれます。

 金髪碧眼で素晴らしく整った貴方のその容姿で優しくされてしまったら、誰もが抗うことなどできないのですから。

 だから私はあの日、貴方に言ったんです。

 これから貴方の優しさは、私だけに向けてくださいと。

 優しい貴方は宥めるように私に接してくれましたね。

 ありがとうございます。


★6枚目

いつも私のことを考えてくれる貴方。

 知っていますか?

 実は私、いつだって貴方の力になりたいんですよ。

 前に貴方が、宮殿内の財政が逼迫していると言ってきた時がありましたよね。

 最初、その話を聞いた時は大変驚きました。

 だって貴方は、それが理由で私の周囲の侍女を全員帰国させたいと言うんですから。

 今だから正直いいますけど、最初は納得いきませんでした。

 ですが、そんな私のことを私以上に分かってくれる貴方のあの時のあの言葉、本当に素晴らしいと思いました。

 そうです、私が欲しいのは貴方からの愛だけなのですから。

 そして、そんな私たちの為にと神様が天よりのご褒美として与えてくれたのが、長男のゴーンと次女のユリエルなのでしょうね。

 やはり私たち二人は、神によって選ばれた関係と言えるのではないでしょうか。


★7枚目

 私が泣いていた時も貴方は優しかったのを覚えています。

 ガルフお兄様が無くなった時は、何日も一緒に泣いていただき、ナーベお姉様とその息子達も一緒に亡くなったときには、敵はとってやると言ってくれて私は心の底から貴方と言う存在に感謝をしました。

 ですが、そうは言っても私は貴方には危険な橋などは決して渡って欲しくはありません。

 なので、くれぐれも変な気は起こさないで頂きたいのです。

 だから、その後お母様に王国へ戻ってこいと言われた時、私は本当に貴方に話すのを躊躇いました。

 確かにお母様が言うようにお兄様とお姉様がいない今、私が王位継承者となってしまいました。

 なのでお母様が私に帰ってこいと言う理由も分かるのです。

 ですが、そんなのは私には関係ありません。

 王位継承権など私には興味がないのです。

 あんなものは、お母様と共同統治をしているお父様に差し上げても全く構いません。

 貴方と一緒にいることが私の全てなのです。

 そう思いながら、私は貴方に話すのをずっと躊躇っていました。


★8枚目

 お母様からの催促も日増しに強くなってきた頃でも、貴方は優しかった。

 毎日、私の事を気にかけてくれる貴方は私の異変は絶対に見逃さないのですね。

 私が事情を話し、王国に帰らなければいけないと話した時も貴方は毅然と振る舞ってくれたのを覚えています。

 あの時、貴方がお腹の子も合わせて五人とも自分が守ってやると強く言ってくれたのが何とも力強い励みとなりました。

 お陰で私はあの時、母の元へ帰る決心がついたのです。


★9枚目

 お母様の国へ来たと言うのにも関わらず、貴方は自国にいた頃と変わらずに精力的に動いてましたよね?

 いくら貴方が素晴らしい方だとは言っても、慣れない環境だけに上手くいかないこともあったことでしょう。

 それでも貴方は、お母様の国と貴方の国、両方の事を思いながら激しく動いていましたね。

 本当に貴方にはいつも頭が下がります。

 それだけに貴方は、自分の国の民の異変を誰よりも気づくことができ、迅速な行動がとれたと言うことなのでしょう。

 あの時の貴方の行動に指導者と言うのは、こうあるべきと言う姿を私は見ることができました。


★10枚目

私は貴方の次に私のお母様と言う存在が大好きでした。

 ですが、それはあくまも貴方との関係を尊重してくれていたと言う前提があったからです。

 ハッキリ言って私が帰った時のお母様は別人としか言いようがありませんでした。

 何かあると、私を呼び出し文句を言う。

 文句を言うのだけであればいいのです。

 恐らく、ことあるごとに言葉と行動を挟んでくるお母様の真の狙いは、私と貴方との関係を壊れさせることだったのではないでしょうか。

 多分ですが、そんなお母様の狙いには貴方なら最初から気づいていたのかもしれませんね。

 ですから、貴方は敢えてお母様の元を離れたのだと私は思います。

 そして、私も貴方のことを誰よりも大切に思っています。

 貴方が何処に行こうとも、何をしようとも決して離すことはありません。

 だって私の全ては貴方のもであり、貴方の全ては私のものなのですから、そんなのは決まりきったことなのです。


★11枚目

 いつまでも貴方の元へ送り出してくれないお母様と私の口論は、日に日に激しさを増していきました。

 そしたらお母様が私に変なことを言うんですよ

 「貴方は我が母、ラナアに似ている」

 何て言うんです。

 お母様の母と言うことは、私のお婆様です。

 だから私は言い返してあげましたよ。

 「当然です。だって、私は貴方の娘ですから」

 と、そしたらお母様、私に言うことはもう何もないなんて言うんですよ。

 おかしな人ですよね。

 あんな激しい情熱を持った愛に生きた素晴らしい方、私も見習いたいくらいです。

 おっと、見習う必要はありませんね。

 私は貴方相手に、それを実践しているのですから。


★12枚目

 私より先に戻っていた貴方は、やはり全ての者の為に精力的に動いていたようですね。

 さすがと言わざるを得ません。

 どうして、そう思ったのかですかって?

 そんなのは分かります。

 だって、私は貴方の全てなのですから。

 ですが、そんな素晴らしい貴方ですが、一つだけ注意して欲しい点があるので伝えておきます。

 恐らく貴方は私がいない間、素晴らしい采配を見せていたのでしょう。

 その中には貴方への忠誠心が異常と言わざるを得ない者も多くいましたよ。

 そして、その者が言うには、貴方は私から離れてしまったとまで言うものがいたほどなんです。

 全く笑っちゃいますよね。

 そんなことなんて天地がひっくり返ってもあり得ないことなのに。


★13枚目

 私のお母様が崩御された時も貴方は優しかった。

 私と貴方にあんな態度をとったお母様でしたから、私は正直関わりたくはありませんでした。

 ですが、だからと言って対応しないのは良くないと教えてくれた貴方は流石です。

 あの時の貴方の言葉、行動の一つ一つに貴方の愛、思いを感じることができました。

 そして、貴方にも自国の民のことがあるのにも関わらず、二人で一緒にお母様の国に帰ってくれるなんて、私は微塵にも思っていませんでした。 

 あの時の貴方の行動に、あの時の私がどれ程の勇気をもらったのかははかり知れません。

 やはり私たちは全てにおいて最高の夫婦と言えるのでしょう。

 愛しています。


★14枚目

 国に帰ってきた当初、貴方が私に代わって王位継承は自分にあると言い出した時、私は貴方のことが信じられなくてごめんなさい。

 何故あれほど普段から深く愛してくれる貴方を私は直ぐに信じることができなかったのでしょうか。

 貴方は私のお父様、そして議会と私が対立することを防ごうとしたんですね。

 そうとは知らず自分勝手な行動をとってしまった私ですが、それでも貴方は優しかった。

 毎日毎日、私に甘い言葉をささやいてくれ、私が心細くなった時、いつでも私のそばにいるといってくれた貴方の言葉を今でも思い出します。

 あの時の私は、お母様の遺言通りに自分が当地者として振る舞うことに一生懸命だったんです。

 ですが、そのお陰といってはいけないかもしれませんが、結婚して10年以上たっても気持ちが冷めることはないのは貴方も一緒なんだと改めて確認することができました。


★15枚目

 そして2年後のあの出来事に繋がるのですが、貴方にとって、あの出来事は非常に驚かれたのではないでしょうか。

 もちろん私も驚きましたよ。

 ただ、私が驚いたとは言っても、それはあの出来事を知ってと言うことではありません。

 私が驚いたのは占い師であるカーミラの言葉に対してです。

 彼女は、あの出来事をピタリと言い当てただけではありません。

 その後に私と貴方が共同で為すべき行動も全て示してくれたのです。

 最初、カーミラの言葉には驚きだけではなく、自分一人でできるのか?と言う不安も多くありました。

 ですが驚くことにカーミラは、お父様も説得してくれたんです。

 彼女の強い説得は、お父様の心を揺り動かしてくれて、お父様は私と貴方の為にと言うことで、このお城を作ってくれました。

 とは言っても勿論、それは貴方の今まで行った素晴らしい行いと言うものがあっての事なのでしょう。

 全く素晴らしい方ですね、貴方は。

 


○○○○○


 手紙はここで終わっている。

 彼女は筆を止めると、書き終わった手紙をまとめて机の中に大事そうにしまった。


 そして、周囲を入念に見渡して周りに誰もいないのを確認すると彼女は、横にある大きな直方体の箱のそばまで移動した。


 移動した彼女は、箱を空け中にいる冷たくなった一人の男にキスをして一言言った。


「さー、貴方、今日も始めましょう!私と貴方の永遠に続く愛の時間を」


 これは、どこまでも純粋に愛情だけを追い求め続けた女性の物語である。

 そして、この女性は後にフラウ・ラ・ロカ(狂女)と呼ばれ、城に一生幽閉されることになった。

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